「信頼していた友人が…」10代特有の“キリキリとした孤独”

――今作『ナイス実存』には、さまざまな動物が登場し、タイトルにもある「実存」の問題をはじめ、いくつもの哲学的な問いと対峙することになります。

たとえば第2話「青春の単独者」では、主人公は1匹のウォンバットの青年。本来、ウォンバットはナワバリ意識が強く、単独で行動する習性があるにもかかわらず、彼は友だちが大好きというちょっと変わり者です。

しかし、だんだん相手に敬遠されるようになっていって……、自身の孤独を受け入れて一歩踏みだすまでを描いた作品です。

第2話「青春の単独者」の主人公である、1匹のウォンバットの青年
第2話「青春の単独者」の主人公である、1匹のウォンバットの青年

ドリアン助川 この物語の大きなテーマは「孤独」ですが、僕が描きたかったのは、セーレン・キェルケゴールの「単独者」です。

彼は、キリスト教的な実存主義――つまり、宗教を基盤とした人間の存在と、それによる徹底的な痛みや寂しさを書いた哲学者で、真理を発見するための情熱を持ち、たった1人で生きることに自信を持つよう主張したことで知られています。

その実践として、婚約の破棄までしてしまい、それが彼をより深刻な孤立へと追い込んでいくことになりました。

——この物語には、どことなく同性愛的な雰囲気も漂っていますね。

ドリアン助川 創作時には、2015年に起こった一橋大学でのアウティング事件も念頭にありました。ある学生がゲイの友人から好意を示され、悩んだ末に共通の友人間でアウティング――すなわち、同性愛者であることを周知した結果、ゲイの彼は心身に変調をきたして自殺するに至ってしまった、という事件です。

あるいは、アメリカでもトランプ大統領が再選したことで、性的マイノリティに対する差別が助長されることになってしまった、ということも影響を与えています。若いときの同性への憧れみたいな感情は、僕も男子校出身ということもあるので、わからないわけではありません。

それに、同性愛ではなくとも、信頼してた友人がじつは自分に親しい感情をぜんぜん抱いていないことに気づいてしまった……といった、10代特有のキリキリとした孤独の痛みって、多くの人が経験ありますよね。そうした感情を、ウォンバットの物語と結びつけながら、作品を膨らませていきました。