「巨大な睾丸」をどう物語にするか
――ドリアンさんの最新小説集『ナイス実存』において、インパクトが絶大だった動物のひとつにハニーポッサムがいます。リスやハツカネズミに似た小さな有袋類で、最大の特徴は睾丸が極端に大きいこと。腹部の3分の1を占めるというのですから、驚きです。
ドリアン助川 やはり、むっちゃデカい睾丸というのは無視できない、あまりに強烈な個性ですが、それだけではなかなか物語を引っ張っていくことはできません。
下ネタギャグで終わらせるわけにはいかないので、この話には随分悩みました。ネタ帳に書き入れてから、実際に執筆に至るまでに3、4年はかかっているのではないでしょうか。
――この物語(第9話「詩の成立点」)は、2匹のハニーポッサムが繰り広げる議論を中心に進行しますが、その話題が「詩はどうやって発生するのか」というもので、睾丸推しからのギャップに意表を突かれました。でも、思えば「詩」は、「叫ぶ詩人の会」というバンドで広く知られるようになったドリアンさんの専門でもありますよね。
ドリアン助川 専門でもないんですけどね(笑)。この物語で重要なのは、ハニーポッサムの生態です。
主食が花の蜜と花粉であるがゆえに、活動するためのエネルギーが極端に少なく、日中は基本的に寝て過ごしていて、時に仮死状態に陥ることもある。夜だけ意識のある彼らが、夜空を見ながら何かを話すといえば――これはもう「ポエジー」おいて他になかろう、と。
加えて、具体的にイメージしていたのは、エミリー・ディキンソンというアメリカの女性詩人の作品です。彼女はある詩のなかで、「玄関のドアの前の枯れた植物に、言葉によって花を咲かせることができる」と言いました。そして、「そうしたことを成せるのが詩人という存在である」とも。
――ドリアンさんにとって、「詩」とはどのようなものなのでしょうか。
ドリアン助川 あくまで私論ですし、必ずしも詩のすべてがそうだというわけではありませんが、まだ見ぬ地平を、言葉によって提示してくれるもの……でしょうか。また同時に、そうして提示されたものを見た人が、「あ、でも、これ知ってるよ!」と共感を生むものでなくてはならない。
少なくとも、僕が詩を書くときには、この2つのことを自身に課しています。そうした自分なりの哲学を、登場人物たちに代弁してもらった格好ですね。













