坪単価250万円で湾岸の1LDKが買えた時代
夜8時を過ぎているのに、海側はほぼ暗いままだ。「窓に明かりがついていない」という話は以前から耳にしていたが、上方から見て改めてこの目で確認することができた。
会場に集まっていた面々は多彩だった。ドバイの不動産を扱う業者、ベトナム系のビジネスオーナー、飲食業や教育関係の会社の経営者─肩書はさまざまだが、共通しているのは「不動産で資産を増やしてきた、あるいは増やそうとしている」人たちということだ。
そこで出会った一人の女性が印象に残った。彼女は2016年、湾岸エリアの1LDK・50平米のマンションを5980万円で購入したという。今その部屋は1億円の値段がついている。坪単価でいえば、約390万円が今や660万円を超える水準に上がったことになる。
「坪単価390万円で湾岸の1LDKが買えた時代があったんですね」と私が言うと、彼女は「そうなんですよ、ありました」とどこか誇らしげだ。今や都内中古マンションの平均坪単価は350万円と言われる。その時代がいかに遠くなったか、という話だ。
2016年に湾岸のマンションを買って1億円程度の値がついているという話は、確かに目ざとい判断だったと思う。だがこうした成功譚については、私は「結果論」として聞くことにしている。投資の観点では、正しい判断で成功した話と、同じような判断をして失敗した無数の話を、セットで見なければならない。
一つ、象徴的な話をしよう。2011年3月、東日本大震災が起きた直後、タワーマンションの価格は一時的に急落した。一カ月の間に、物件によっては半額近くにまで下がったところがある。そこで、「これは買いだ」と判断した投資家がいた。当時1億円を切っていた部屋を5部屋買い込んだその人物は、結果として1部屋あたり1億円以上の税引き後の売却益を手にした。
だが、この話には注意が必要だ。これはリスクを正確に見極め、タイミングを計った稀有な投資家の話だ。誰もが恐れて手を引いた局面で、逆張りで買い向かう判断ができる人間は、もともと別次元の覚悟と資力を持っている。
「タワーマンション投資で儲かる」という話に飛びつく人の大半は、この水準にはない。不動産投資というのは再現性がきわめて低い世界だ。同じ物件は存在しないし、同じ時代も二度と来ない。過去に誰かが成功した話は、今の自分に当てはまらない。
文/滝島一統













