第2のエンジン──「日本大安売り」という円安政策
しかし、日本株を企業業績やPER・EPSだけで語るのは一面的だ。相場を動かすもう一つの、そしておそらく最大の原動力は歴史的な円安である。
海外投資家にとって円安とは、日本株全体が値引き販売されていることに等しい。安い円で仕込み、株価上昇のキャピタルゲインを取り、将来の円高転換で為替差益まで狙える――これほど魅力的なバーゲン会場は世界にそう多くない。
委託売買に占める海外投資家のシェアは7割に達するとされ、米AI需要の高まりが海外マネーを通じて日本株に直結する構図が、ここにある。
この構造の中心にいるのが、「責任ある積極財政」を掲げる高市早苗政権だ。拡張的な財政と日銀の緩やかな利上げペースという政策ミックスが投機的な円売りを誘い、ドル円は8月に1ドル=160円台に乗せた。
7月末の日米協調介入で一時155円台まで振れたものの、すぐに160円台を回復するなど、介入だけでは円安の基調は変わらなかった。株価上昇は「経済が好調である」という最も分かりやすいメッセージとして国民に届く。
政府自身が株高の材料を供給し、その恩恵を最も享受するのが海外投資家であるという、壮大な構造依存である。
だからこそ、日経平均の限界は株価やバリュエーションでは測れない。限界を決めるのは、円安政策そのものの寿命だ。そして9月に入り、その寿命に本格的な亀裂が走った。
日銀内で最も利上げに前向きとされる高田創審議委員が9月2日、「2026年は局面が変わり新たなレジームに入った」と追加利上げを示唆する発言を行うと、円はわずか2日で156円台まで急伸。9月8日には一時152円台にまで下落した。
しかもそれは日本の経済力によって円が買われたのではなく、米国からの利上げ圧力に沿った、政策起点の円高だった。
ここに、政府・日銀が抱えるジレンマが凝縮されている。円安を放置すれば輸入インフレで物価高が止まらず家計を圧迫し、利上げに動けば住宅ローン負担が重くのしかかる。
9月の日銀金融政策決定会合では追加利上げ観測が急速に高まっており、市場では0.5%の大幅利上げすら取り沙汰される。利上げを急げば景気が冷え、遅らせれば円安が進む。
もはや、どちらにも容易な道は残されていない。円安という「大安売り」の看板は、外国人投資家が最も気にする一枚である。それが下ろされ始めた意味は、けっして小さくない。












