直面する危機を認識する
それは、不安をもつ人びとは、いち早くその解消を望むからです。人間はうまくいっているときには変化を望みません。しかし、何かがうまくいっていないときには、それを変革する渇望が生まれます。
これを利用するのが独裁者です。ナチス・ドイツ時代の国民啓蒙・宣伝大臣として有名なヨーゼフ・ゲッベルスは、人びとを動員するうえで、理屈よりも怒りや恐怖といった感情に訴えることの重要性を認識していました。現代でも最も著名な独裁者アドルフ・ヒトラーは、危機をうまく利用して独裁をつくり上げた代表と言えます。
危機に直面した国家や組織において、リーダーが自らに権力を集中させる選択が真に国家や組織のためなのか、自己利益のためなのかは、その時点で判断することは困難です。しかし、過去の事例を見れば、危機に独裁が生まれる傾向にあることだけは確かです。
現代では、発展した民主主義国家においても若者を中心に独裁を求める声が高まっています。このことは、人びとが日々の生活に対して不安を抱えていることの裏返しなのかもしれません。古くから、人びとを危機から救う英雄譚が語り継がれてきたように、人は危機から救ってくれる救世主を求めるのです。
至極当然ですが、危機を利用するためには、それを正しく理解することが重要です。
日産自動車(以下、日産)、そしてルノーの最高経営責任者(CEO)まで上り詰めたカルロス・ゴーンは、それを理解していたリーダーだったと言えます。当時、倒産の危機にあった日産に、ルノーとの資本提携によって現れたのがゴーンでした。
ゴーンはルノーの副社長だった当時、最高執行責任者(COO)として日産に入社しましたが、当初は日産の上層部からルノーの差し金だと思われていたようです。しかし、ゴーンは日産の経営において、出身母体であるルノーにも一歩も引かない姿勢を見せ、日産社員からの支持を得ていきます。独裁とも呼ばれる彼の強権的な手法は、むしろ「他責の文化」とされる日産の社風に新風をもたらしたとも言われ、評価されました。
その後の剛腕ぶりはよく知られるところですが、直面する危機を認識し、それを社内に共有して日産の経営をV字回復させたゴーンの経営手腕は高く評価され、当初は3年の予定だった任期も延びに延び、ゴーンは日産だけでなく、ルノーのCEOにも上り詰めます。危機とそれへの対処の成功が彼を独裁者にしたとも言えます。
政治でも同様です。たとえば、経済停滞に伴って生じる格差問題、失業問題は、独裁を構築するうえで最適な危機と言えます。
文/大澤傑













