日常が恐怖と不安に満ちたものに
――盗撮や性的画像の拡散、性的ディープフェイクなどでは、「撮られた本人が気づいていないから」「実際に身体が傷つけられたわけではない」等の理由で被害が軽く見られ、性加害が起こりやすくなるということはあるでしょうか。
アメリカ精神医学会(APA)によるPTSDの解説によれば、性暴力のトラウマ体験にはレイプなど身体接触を伴う望まない性的体験の他に、同意がないのに性的写真や動画を撮られたり、それらが流出したりすることも含まれます。PTSDはPost-Traumatic Stress Disorderの略ですが、盗撮や性的ディープフェイクによる被害には、いつまでも「ポスト(事後)」にならないという、極めて深刻な問題があるのです。
おそらく加害者には「身体的な加害でないのだから、たいしたことではない」という感覚があるのでしょう。しかし、デジタル性暴力がリアルな性暴力より影響が軽いということは決してありません。自分の性的な写真や動画がいつどのような形で表に出るかわかりませんし、「消去する」と言われてもどこかに残っているのではないかという、強い不安はいつまでも拭えません。
例えば盗撮では、撮られた側が気づいていなくても、顔が写っていなくても、その画像が表に出たとき、持ち物や服、背景などから被害者が特定される可能性もあります。逮捕された加害者の所持データに写っていたということで、警察から連絡が来ることもあるでしょう。ある日突然、自分が盗撮されていたと知った被害者は、電車の中、学校、ショッピングや食事をする店など、それまで安心して過ごせていた場所が安全とは思えなくなってしまいます。日常生活が「盗撮されるかもしれない」という不安や恐怖に満ちたものになり、その感覚は一生、消えないかもしれません。
―― 一度流出した性的画像を完全に削除することは難しいのでしょうか。
まず、18歳未満のときに撮影された性的な画像や動画については、「Take It Down」というプラットフォームを通じて削除する仕組みがあります。これは、「全米行方不明・被搾取児童センター(National Center for Missing & Exploited Children:NCMEC)」がMeta社の協力を得て運営しているもので、日本語対応もしています。
また、18歳以上の同意のない性的画像・動画を対象としたものでは、イギリスの民間団体がMeta社と開発した「StopNCII」(NCIIはNon-Consensual Intimate Image Abuseの略)という同様のプラットフォームがあり、いずれも無料です。これらを使うことで、Meta社のInstagram、Facebookの他、さまざまなオンラインプラットフォームに存在する画像や動画を削除できる可能性があります。
ただし、「Take It Down」ではXが含まれておらず、LINEは「StopNCII」でも対象外です。また、ダークウェブと呼ばれる、専用のツールやブラウザーを通してやり取りが行われる匿名性が高いウェブサイトにデータが流出すると、削除することも困難です。ネット上から画像・動画を完全に削除することには限界があると言えるでしょう。
知を探究する教養メディア imidas(イミダス)より転載














