SNS時代の不透明な人間関係が謎と混乱を呼ぶミステリ『あいつも誰かに殺される』下村敦史 インタビュー_1
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「死ね」という言葉が凶器に変わる

──SNSを題材にした作品は数多くありますが、『あいつも誰かに殺される』はありそうでなかったアイデアですね。そして、怒濤のクライマックスが圧巻でした。「小説すばる」に連載された作品ですが、どのような経緯でスタートしたのでしょうか。

 きっかけは担当編集者から「下村さんに書いてほしいアイデアがあるんです」と提案されたことでした。「SNSに『××死ね』と投稿されたら、名指しされた人がどんどん殺されていく物語はどうですか」と言われて、すぐに「なるほど、SNS版の『DEATH NOTE』みたいな設定ですね」と話が弾んだんです。「その設定なら、捜査する警察、死ねと書かれた人、書いた人、書こうとしたけれどできなかった人……。そうした多角的な視点で、キャラクターの視点を切り替えながら物語を盛り上げていけますね」とトントン拍子で方向性が決まったのですが、肝心の「誰が、何のために、どうやってそれをやっているのか」という真相部分については、「それは下村さんが考えてください」と(笑)。

──そこからが下村さんの腕の見せどころだったわけですね(笑)。

 まあ、そうですよね(笑)。そこで、まずは「誰が、何のためにやったのか」を考えました。パッと思いつくのは(ゆが)んだ正義感ですが、読者のみなさんも最初にそう予想するはずです。だからこそ、序盤で警察の捜査を通じて「そういう可能性もある」という情報を出しつつ、早いうちに読者の予想を潰しておかなければならない。そこから、読者の度肝を抜くような、もっとひねったアイデアを練り上げる作業が始まりました。

──冒頭から、警察署に大勢の人が押し寄せるパニック状態が描かれます。

 事件がある程度進行している状態をプロローグに持ってきたかったんです。「パンデミック映画」や「ゾンビ映画」のような混乱状態をまず見せたかった。
「え、一体どんな大事件が起きてるんだ?」と読者の興味を引いたうえで、プロローグの最後に「SNSで『死ね』って書かれたのよ!」という、めちゃくちゃ落差のあるセリフをぶつける。そのギャップで読者の心をつかみたかったんです。
 実際に今のSNSを見ていると、「死ね」という言葉は日常的に飛び交っていますよね。それが本当に実現してしまったら──という、身近でありながら、なおかつリアリティのある恐怖を起点に物語を広げていこうと思いました。
 実際、誰がどういう理由で選ばれているのかがわからずに殺されていくって恐ろしいですよね。

不可視の関係が恐怖を広げる

──下村さんは初期の頃、プロットを綿密に立ててから執筆されていましたが、その後はあまり決めずに書かれることも多いとお聞きしています。本作はどうでしたか。

 真相部分に関しては、しっかりつくってから臨みました。誰が被害に遭って、誰が関与して……といったロジックはさすがにしっかり決めないと物語が崩れてしまいますから。
 ただ、読んでいて感じていただいたかもしれませんが、この物語には至るところにミスリードが仕掛けられています。「この人は何か重大な秘密があるのではないか」と思わせておいて意外とそうでもなかったり、逆にモブキャラが実は重要だったり。
 今回は事件の性質上、事件の関係者全員が深く繫がっていると物語が狭くなってしまうので、関係しているのかしていないのかよくわからない人も出しつつ、事件の規模を大きくし、恐怖を拡散させることを意識しました。

──SNS時代らしい関係性の絞りきれなさが物語を面白くしています。誰と誰が繫がっているかわからない。この時代の不透明な人間関係を感じました。

 こういう事件が起きたときに、SNSを含めた世の中で起こりそうなことを取り入れていきました。「小説すばる」連載時には「迷惑系ユーチューバー」が登場するエピソードもあったんです。SNSで予告殺人を行うタナトスをおびき出そうとし、警察が混乱するという。長くなりすぎるので、単行本にするときにカットしましたけど。

──いろいろなアイデアがあったんですね。広がっていく恐怖の一方で、物語を支える軸として、刑事の虹ヶ谷(にじがや)礼太郎(れいたろう)音羽(おとは)沙織(さおり)というコンビが登場します。二人がいるおかげで読者が混乱せずに事件を追えるようになっています。虹ヶ谷・音羽の二人に好感を持つ読者も多いんじゃないかと思うのですが、シリーズ化を意識されているんですか。

 まったく考えていませんでした。僕としてはオーソドックスな刑事コンビだと思って書いていただけです。でも、意外と担当編集者が気に入ってくれたみたいで、「またこの二人を登場させましょうよ」って言ってくれますね。特別なキャラ付けみたいなことはしていなくて、とくに個性的というわけでもないと思うんですけど、気に入ってもらえる何かがあるのかもしれません。

──個性的ではないと言っても、直接的に書いていないだけで、何かありそうだなという匂わせみたいなものはありますよね。そこが気になるところです。

 虹ヶ谷をミステリアスな人物に、音羽は読者が共感できるようにとは思いました。そのために虹ヶ谷はプロローグ以外に視点人物にはしないようにして、音羽は過去を丁寧に描くことで、視点人物としての役割を明確にしています。ほかにも〝えびす”というあだ名で呼ばれている警察官・海老名(えびな)が出てくるんですが、このキャラクターも「海老名を探偵役にした話を書きませんか」と編集者から言われたりもしました。こちらは思いつきで出しただけだったりするんですけどね。