「BeReal」よりも厳しいSNSが舞台に

──事件は写真投稿型のSNS「リアリズム」で起きます。「裏切り者の詐欺師の鈴木健三、死ね!」という投稿を受けて、タナトスと名乗るアカウントが「お前の望みどおりタナトスの影が覆い、鈴木健三には無残な死が訪れるであろう」と死を宣告します。そして実際に鈴木健三という人物が亡くなってしまう。「リアリズム」は一日に一回、ランダムなタイミングで通知が届き、アプリを立ち上げたら自動的にカメラも起動します。通知が届いてから十秒以内に写真を撮らなくてはならなくて、撮影した写真は〝今日のリアル〟として自動で投稿されるという、かなり厳しいルールのSNSです。作中でも触れられているように「BeReal(ビーリアル)」に似ていますが、このアプリの設定はどうやって考えたんですか?

 実は、企画の打合せをした当時は「BeReal」の存在を知らなかったんです。打合せで、SNSを舞台にしたミステリという話をしていたら、若い担当編集者が「下村さん、『BeReal』って知ってますか」と教えてくれて。説明を聞いて「え、何それ怖い」って(笑)。下手をするとプライバシーが強制的にさらけ出されかねないSNSがあると聞いて、「これを物語に出せないか」という話になりました。
「BeReal」は毎日ランダムな時間に届く通知から二分以内に、インカメラとアウトカメラで同時に撮影した無加工の写真を投稿するというルールです。「リアリズム」のようにアカウントが消されるようなペナルティはありませんが、小説では架空のSNSとしてさらに厳しいルールを設定し、事件が起こりやすくしました。
 驚いたのは、連載が終わった直後に、「BeReal」のユーザーが立て続けに職場の情報漏えいを起こしたことです。それをきっかけに「X」などのSNS上で「『BeReal』って何だ?」とバズったので、すごいタイミングだなと思いましたけど。

──情報漏えい事件よりも前に下村さんが『あいつも誰かに殺される』を書いていたのは強調しておいたほうがいいですね。リアルな日常をテーマにしたSNSで予告殺人が起きるというのは本当に不気味です。しかもその予告された人物が「鈴木健三」のような同姓同名が多そうな名前なので、特定が難しい。下村さんの代表作の一つ『同姓同名』を思い出す読者も多いでしょう。

 この事件にふさわしい真相と動機を用意するところから考えていったので、犯人像も自然と見えてきました。そこから被害者をどのような人物に設定するかを考えたんですが、SNSで名前をさらされるわけですから、「全国の同姓同名の人物をどうやって守るのか」という難問に警察が直面するのも当然でした。

──ミステリ作家の方にインタビューしていると、登場人物の名前を考えるのが大変だと時々うかがいます。犯人や被害者と同じ名前の方が不愉快に思うんじゃないかと。そのことを回避するために変わった名前を考える方もいますが、逆に下村さんの作品の場合は同姓同名がたくさんいそうだから、かえって気にならないのかもしれません。名前はどうやって決めているんですか?

 名前に関しては本当にいろいろですね。たまたま何かの記事で見かけた名前から、名字の一字、名前の一字をいただいたり、検索サイトで探したりもします。過去に自分の作品で使ってないはずの名前をつくるようにはしています。
 意識しているのは読者にちゃんと憶えてもらえる名前にすること。「山田さん」や「田中さん」ばかりだと憶えにくいので、少し特殊な名字を混ぜて差別化を図っています。漢字二文字の名字が多い中に、三文字の名字を入れるとかですね。主人公の名前には、ちょっとかっこいい名前を選んだりはします。「虹ヶ谷」という名前も、キャラクターと合っていて、読者の記憶に残りそうだなと思ってつけました。

──クライマックスでその虹ヶ谷刑事と犯人との間の熱い攻防が繰り広げられますが、書くことにエネルギーを使ったのではないでしょうか。

 熱を持って書かないと読者に届きませんから。ヒントになったのは、呉勝浩(ごかつひろ)さんの『爆弾』の「スズキタゴサク」です。呉さんとはデビュー当時から親しくしているんですが、『爆弾』は本当にすばらしい作品だと思っていて、『あいつも誰かに殺される』の犯人も、タゴサクに匹敵するくらいのカリスマ性が必要だと思いました。そうでなければこれほど大きな事件を支えられないだろうなと。そこで、犯人がどういう人物か、深いところまで踏み込んで書くようにしました。

もしもあなたが恨まれていたら?

──予告通りに人が死んでいく一方で、SNSが盛り上がり、殺人事件を観客として楽しむグロテスクな状況が描かれています。犯人は誰かというミステリとしての面白さと、社会的にどんな影響があるかというシミュレーションとしての面白さ。その両方がこの作品の魅力ですね。

 それが狙いでした。そのために一人の視点にこだわらないようにしたので、かえって物語は書きやすかったですね。SNSをめぐる現代を象徴するような物語にしたかったので、いろいろなエピソードを書けたことはよかったと思います。

──登場する人物それぞれがいじめや貧困、誹謗中傷、ルッキズムなど現代人が抱える問題に直面しています。

 登場人物全員に対して言えることですが、彼ら、彼女らは僕がSNSで何百、何千と見てきたいろいろな投稿から感じた「リアル」そのものです。もしも読者が登場人物の言動に不愉快なところがあれば、それは実際に起きているSNSの悪い部分だと考えてほしいです。
 実際、SNSを見ていると危険な投稿がたくさんあるんです。誰かをつるし上げるような、小馬鹿にするような、もしも当人がそれを見たら絶対に恨むだろうなという内容です。見ていて、もしその投稿がバズったら相手に気づかれるんじゃないかと心配になります。相手が気づいたらどうするんだろう。『あいつも誰かに殺される』も、もしも自分がSNSで誰かを非難して恨まれたり、その逆に非難される立場になったら……と想像しながら読んでほしいですね。

あいつも誰かに殺される
下村 敦史
あいつも誰かに殺される
2026/8/26
2,420円(税込)
416ページ
ISBN: 978-4087700466
「お前の望みどおりタナトスの影が覆い、鈴木健三には無残な死が訪れるであろう」
SNSアプリ「リアリズム」に投稿された呪詛に死神からの予告が返信された。誰もがいたずらと思った矢先、実際に鈴木健三がビルから転落し、死亡。現場には投稿された呪詛画像のプリントアウトが貼られていた。この大胆な殺人事件に世間は沸騰。「リアリズム」内には殺害を依頼する投稿があふれかえった。都や県の垣根を越えて無作為に人間が殺されていく。殺害方法は様々だが、いずれも投稿画像が傍らに添えられていた。犯人は同一か、複数か。模倣犯は含まれていないのか。一課の警部補・虹ヶ谷礼太郎と女性刑事・音羽沙織は、翻弄されながらも粘り強く捜査を続けるが、事件の範囲は拡大を続けるばかりで――。
ラストの衝撃まで目が離せない。
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