日本独特の脳卒中トラウマが誤解を強めた
こうした背景から、「脳卒中だけは避けたい」という切実な感情が、多くの日本人の中に深く刻み込まれました。そして脳卒中の主な原因とされたのが高血圧であり、その高血圧の原因として、医学界もメディアもこぞって「塩分の摂りすぎ」を挙げました。
確かに当時の日本人は味噌、漬物、干物といった塩分の高い食品を日常的に食べており、塩分が多かったのは事実です。しかし、本来なら脳卒中にはさまざまな要因――たんぱく質不足、過酷な労働環境、冬季の急激な気温変化、運動不足、過度の飲酒など――が複雑に絡み合っています。
にもかかわらず、当時の社会では「塩分が悪い」「塩分さえ減らせば脳卒中は防げる」という分かりやすい指標だけが広がってしまいました。その流れの中で、ラーメンスープは塩分の塊として一括りにされ、「スープを飲むと血圧が上がる」「残さなければいけない」という空気が作られていったのです。
けれども冷静に考えれば、血管を丈夫に保つためにはたんぱく質や脂質、細胞膜の材料であるコレステロールは重要な要素の一つです。それらが足りなければ、血管の弾力は失われ、破れやすくなってしまいます。実際、動物性たんぱく質の摂取量が多い地域ほど長寿傾向にあることも知られています。本来は「血管を強くする栄養」も同時に語られるべきだったのです。
ところが、日本人の心に染みついた強烈な脳卒中トラウマは、それらすべてを覆い隠し、「塩分さえ控えればいい」「塩分こそ諸悪の根源」という極端な思想を定着させてしまいました。この「塩分=絶対悪」という刷り込みこそが、体に必要な栄養が含まれているはずのラーメンスープを一律に悪者とし、不当に遠ざけ続けている大きな誤解の正体なのです。
文/和田秀樹













