日本独特の脳卒中トラウマが誤解を強めた

こうした背景から、「脳卒中だけは避けたい」という切実な感情が、多くの日本人の中に深く刻み込まれました。そして脳卒中の主な原因とされたのが高血圧であり、その高血圧の原因として、医学界もメディアもこぞって「塩分の摂りすぎ」を挙げました。

確かに当時の日本人は味噌、漬物、干物といった塩分の高い食品を日常的に食べており、塩分が多かったのは事実です。しかし、本来なら脳卒中にはさまざまな要因――たんぱく質不足、過酷な労働環境、冬季の急激な気温変化、運動不足、過度の飲酒など――が複雑に絡み合っています。

にもかかわらず、当時の社会では「塩分が悪い」「塩分さえ減らせば脳卒中は防げる」という分かりやすい指標だけが広がってしまいました。その流れの中で、ラーメンスープは塩分の塊として一括りにされ、「スープを飲むと血圧が上がる」「残さなければいけない」という空気が作られていったのです。

けれども冷静に考えれば、血管を丈夫に保つためにはたんぱく質や脂質、細胞膜の材料であるコレステロールは重要な要素の一つです。それらが足りなければ、血管の弾力は失われ、破れやすくなってしまいます。実際、動物性たんぱく質の摂取量が多い地域ほど長寿傾向にあることも知られています。本来は「血管を強くする栄養」も同時に語られるべきだったのです。

丁寧に仕込まれたスープにはさまざまな栄養素が溶け出している(写真/PhotoAC)
丁寧に仕込まれたスープにはさまざまな栄養素が溶け出している(写真/PhotoAC)
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ところが、日本人の心に染みついた強烈な脳卒中トラウマは、それらすべてを覆い隠し、「塩分さえ控えればいい」「塩分こそ諸悪の根源」という極端な思想を定着させてしまいました。この「塩分=絶対悪」という刷り込みこそが、体に必要な栄養が含まれているはずのラーメンスープを一律に悪者とし、不当に遠ざけ続けている大きな誤解の正体なのです。

文/和田秀樹

『ラーメンと健康 「炭水化物=悪」ではない』(KADOKAWA)
和田秀樹
『ラーメンと健康 「炭水化物=悪」ではない』(KADOKAWA)
2026年8月10日
1056円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4040825625
ラーメンは悪役ではない。 頼れる栄養補完食にできる。

「控える・諦める」も「暴飲・暴食」も避ける。
多くの患者のフレイル予防に努めてきた医師による、
中高年のための無理をしない食事術。

日本人の平均摂取カロリーは1970年をピークに減少を続け、現代の食生活では、栄養不足の問題も見過ごせなくなっている。
塩分制限による低栄養・筋力低下、糖質制限と認知機能低下の関連、コレステロール値と死亡リスクをめぐるデータ……。
6000人以上の高齢者を診てきた老年精神科医が、こうした知見と臨床経験をもとに食と健康を丁寧に検証していく。
著者自身も愛食するラーメンを通して、食べ方と健康寿命を見直す一冊。

【目次】
人気ラーメンスタイル別 栄養成分比較表
第1章 「ラーメン=不健康」の常識を疑う
第2章 「減塩・減脂」信仰のワナ―最新エビデンスで見る塩分・脂質の事実
第3章 糖質制限ブームの落とし穴
第4章 美味しさの神経科学―なぜラーメンは私たちの脳と心を満たすのか
第5章 和田秀樹流「罪悪感ゼロ」ラーメン実践ガイド
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