戦争を続ければ、人と金を失い、中国への依存がさらに深まる

それでも戦線を維持するため、ロシアは契約金をつり上げ、受刑者を集め、外国人を募り、北朝鮮兵まで投入した。大国を名乗る国が、北朝鮮から兵士を借りなければ戦争を続けられない。これを外交的成功と呼ぶのは無理があろう。「国力低下」の告白そのものだ。

国民の空気も変わり始めた。

燃料不足、物価高、通信規制、終わりの見えない戦争が重なり、国営調査でもプーチンの支持率は下がった。もちろん、政権がすぐに倒れるわけではない。治安機関は強く、反対派は抑え込まれ、戦時予算も大きい。

産油国でありながら全国的なガソリン不足にあえいでいるロシア
産油国でありながら全国的なガソリン不足にあえいでいるロシア

しかし、倒れないことと勝っていることは別である。プーチンは戦争を続ける力を残している。だが、戦争によってロシアを強くする力は失った。

撤退すれば、何のために大量の兵士を死なせ、欧州との関係を壊し、経済を軍需へ傾けたのかを問われる。続ければ、人と金を失い、中国への依存がさらに深まる。自分で始めた戦争によって、自分で逃げ道を塞いだのだ。

その弱みを最も冷静に見ているのが習近平である。

弱ったロシアは歓迎する中国

習近平国家主席
習近平国家主席

中国はロシアの敗北や崩壊までは望まない。国境の向こうが混乱すれば、中国にも不利益だからだ。

だが、弱ったロシアは歓迎する。石油と天然ガスを安く買え、中国製品を売ることができ、人民元の利用も広げられる。ロシアが西側と対立するほど、北京へ土下座するしかなくなる。

だから習近平は、プーチンを無視できる。急ぐ必要がないからだ。値切ることもできる。ほかに売る相手がいないと知っているからだ。

プーチンは欧米に屈しないロシアを作るために戦争を始めた。4年半後に現れたのは、中国の返事を待ち、中国が示す値段を受け入れ、中国の市場なしには立てないロシアである。

つまりは42本の合意文書は、その屈辱を隠す飾りであったということだ。

欲しかった契約は取れなかった。笑顔で迎えられ、友好を語られ、肝心の要求は無視された。プーチンが西側との戦争で失ったものを、習近平は急がず、安く買い取ろうとしている。

文/小倉健一