誤送信
ジャララバードのジアは、12月4日の朝、いつものように事務所の一階の広い会議室でスタッフとミーティングをしていた。その日の出来事を、次のように私に語った。
「あの日、朝7時45分(日本時間午後0時15分)ごろ、一日の予定を幹部スタッフと確かめていたら、携帯に電話がかかってきたんです。相手はドクター・サーブでした」
中村との最後の会話を、ジアは明瞭に覚えている。
「先生からの電話だったので、会議を中断して、応答し、ハロー、ハローと呼びかけたのですが、返事はありませんでした。それで、会議を再開したら、また携帯が鳴ったのです。中村先生からでした。ハロー、ハローと何度も呼びかけましたが、やっぱり出ない。会議をもう一度、止めて、わたしは、先生が乗る車の運転手、ザイヌッラー・モーサムに電話をしました。
ザイヌッラーに先生と一緒かと聞くと、いまスタッフハウスを出たところです、先生は助手席で休んでおられます、と答えました。電話をドクター・サーブに代わってもらい、ご用件は何でしょうかとお聞きしました」
すると中村は、
「おかしいね。わたしは電話をしていないよ」
と、訝しそうに返答したという。
「でも、ドクター・サーブ、携帯に連絡が二度も……」ジアはさらに訊ねた。
「オオー、ソーリー、ソーリー、車のドアにもたれてウトウトしていたので、胸ポケットの携帯を腕で押してしまったんだね。ごめん、ごめん、わたしのミステイク」
中村の携帯はノキアのガラケーでプッシュボタンがむき出しだった。車の揺れで体勢が崩れ、腕で胸の携帯が圧迫されて、二度も誤作動していたのだった。
「そうでしたか。ドクター・サーブ、お気をつけて」とジアは電話を切った。
それから、ものの5分、10分、経ったかどうか……また、ジアの携帯がふるえた。
応答のボタンにジアが触れると、
「ムン タバーシュ、ムン タバーシュ(最悪です。最悪です)、酷いことが起きた」
と、中村の車に同道していたもう1台の運転手、ムハンマド・ヤシンの叫ぶような声が聞こえた。
中村の一行は、トヨタのピックアップトラック2台で、マルワリード用水路の堰があるジャリババへと向かっていた。前の車に中村とザイヌッラーが、後ろのヤシンが運転する車に中村を護衛する4人の警護官が乗っていた。
ヤシンは、「襲撃されて警護官全員とザイヌッラーが殺られました。犯人は逃げた。ドクター・サーブはケガをしているけど、意識はあります。お腹のあたりをさして、タルド・カイー(ここが痛い)と言っている。ナンガルハル地域病院にドクター・サーブを運ぶので、早く来てください」と早口で喋った。
ジアは、藤田に連絡し、ディダール・ムシュタク、モハマド・ファヒーム・シェルザドらPMS幹部と病院へと向かった。
ヤシンが助かったのは奇跡だった。













