自分の淋しさに気づいていない史進

──もともと『水滸伝』は百八人の豪傑の物語です。宋江はリーダーだから物語の中心にいるのはたしかですけど、この巻でも、楊志や石秀(せきしゅう)呉用(ごよう)、魯智深、史進、武松(ぶしょう)、敵方の李富(りふ)など、登場人物それぞれのエピソードが描かれています。この巻の史進はどうですか。

魯智深が史進を少華山(しょうかざん)に訪ねてくるんですが、それがちょうど戦のタイミングなんです。史進が率いる少華山のわずか四百の義賊が、総勢八千の官軍と対峙(たいじ)している。

──その戦のきっかけをつくったのがそもそも史進なんですよね。政府が取り立てた年貢米を奪って周辺住民に配ったから、官軍が排除に乗り出してきた。史進も官軍を挑発しながら野戦を繰り返し、部下たちに厳しい調練を重ねている。史進についてこられない部下を、殺しかねないほどしごいています。

史進の気持ちがすごくわかるなって思いました。できないやつのことが理解できない。何でこれができないの? って思ってしまう。

──史進は若いですからね。まだ二十二歳です。

官軍との戦いで、自分が率いる騎馬隊の中で最後尾だった男がいました。その男が馬を返したときに先頭にいるのに、先頭を駆けなかったことで味方が詰まって敵にやられた。

そのことで、男を激しく叱ります。それも、殴って、打ち据えて、時には殺してしまう、という勢いなんです。

時代が違うとはいえ、そこだけ取り出すと史進はヤバいやつです。周囲にいる参謀役の朱武(しゅぶ)や副官にあたる陳達(ちんたつ)楊春(ようしゅん)は、史進はやりすぎだと思っている。でも、やっぱり史進がいないとこの山寨はやっていけないという思いもある。何と言っても一番強いのは史進だから。

「魯智深は、楊春の方へ眼をやった。
『みんな、史進と同じというわけにはいかないのだ。みんな、人なのだ。闘ったあとの、こんな仕打ちが、なんになる』
 無口な楊春にしては、めずらしいほど言葉が長く続いた。
『つまりこれが、九紋竜(くもんりゅう)逆鱗(げきりん)というやつなのか、楊春?』
『そうだ。誰かが九紋竜の逆鱗に触れるたびに、山寨は暗くなっていく』
『大勝した戦なのにな』
 史進には、なにかが欠けていた。いや欠けているのではなく、まだ大事なものが育ちきっていない、という感じがある。」
(北方謙三『水滸伝』第三巻「輪舞の章」集英社文庫 p229)

この場面、いいなと思いました。ドラマでは描かれないので、何でカットされたんだろうって悔しくなりました。

──史進にとっては朱武も陳達も楊春もみんな年上。誰にも甘えられない。気を張ってリーダーをやっているんですよね。

「どうも、まだ淋しさには耐えられない、子供だったようで」と魯智深が言ってました(p248)。でも史進は自分が淋しいっていうことにも気づけないでいます。「それって淋しいっていう気持ちなんだよ」と教えてやりたくなりました。史進は自分でもよくわかっていないけれど、淋しさを発散するために戦に出ているんです。

魯智深は久々に会った史進が派手な虚仮威(こけおど)しの具足をつけて、赤い棒を持っているのを見て「史進か。見違えたな。虚仮威しの具足をつけた、賊徒の頭目かと思った」って皮肉を言うんですけど、史進には通じません(p213)。

ドラマではこのシーンはなくて、もっと後の場面を演じながら三巻を読んだので、原作の史進が懐かしいなと思いました。まだこの頃は子どもだったんだな、と。

俳優・木村達成が原作『水滸伝』を読んで気づいたドラマ版との違い 宋江はウザキャラ、史進には何かが欠けている…_3
すべての画像を見る

聞き手・構成/タカザワケンジ

写真/矢吹健巳〈W〉 スタイリング/部坂尚吾(江東衣裳)
ヘアメイク/齊藤沙織 聞き手・構成/タカザワケンジ

北方謙三「大水滸伝」シリーズ公式サイト
https://lp.shueisha.co.jp/dai-suiko/