〈後編〉

糸が切れたように学校に行けなくなる

森野信太郎さん(45=仮名)には長年、誰にも言えない“秘密”があった。それに初めて気付いたのは、思春期を迎える少し前だ。

幼いころの森野さんは、「親の言うことをよく聞く、おとなしいいい子だった」という。ボール遊びや戦いごっこなど集団遊びが苦手で、週末はかわいがってくれる祖父母の家でよく過ごしていた。

「小学校高学年から、男子の輪に入っていけないという鬱屈した気持ちを持つようになって。そのころから、自分が憧れる対象は男子ばかりで、あ、そういう趣向があるんだと気づいたんです。スラッとしたやせ型で、ちょっと斜に構えた男の子が好きでしたね。でも、それは絶対に人には言えなかったので、自分の中の闇の部分としてずっと抱えていました」

ひきこもり経験を語ってくれた森野さん(写真/集英社オンライン)
ひきこもり経験を語ってくれた森野さん(写真/集英社オンライン)
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中学1生の冬休みに、測量関係の仕事をしている父の仕事の都合で都内に引っ越した。新しいクラスでは、わざと牛乳を鼻から出して見せたりして、「おもしろいひょうきん者」を装った。サッカーは苦手なのに誘われれば一緒にやり、放課後に男子で集まったとき、「エッチな本を誰か買いに行ってこいよ」と言われ、率先して買いに行ったことも。

「本の内容には何の興味もないけど(笑)、早くクラスに馴染みたくて。すごく頑張っちゃったのをよく覚えていますね」

だが、1か月も経たずに学校に行けなくなる。

「なんか糸が切れたように行けなくなって……。もっと淡々と普通にやれたらよかったのになっていう気持ちもありますが、無理せざるを得なかったとも思います。自分の本性は恥ずかしいと思っていたから、他の人との間に壁ができちゃった。

その反面、みんなからよく思われたいという気持ちも強かったから、無理したんでしょうね。そのせいで、その後の中学高校を暗黒時代にしてしまったので、もったいなかったなと思うこともあります」