災害時は自宅がICUになる

学校へ行く年齢になったとはいえ、現在でも日常的に医療的ケアが必要な真輝さんとの生活では、災害時の対応も重要な課題だ。

「災害のときは基本的に自宅待機と決めていて、避難所には行かない方針です。自宅はマンションの高層階なので、エレベーターが止まったら降りられませんから。家の中で3日間ICUができるよう、蓄電器、カセットコンロのボンベ、水などを普通の家庭より多めにストックしています」

意外だったのは、歯科医院への定期通院だ。

「栄養を口から取らない、物を食べない子なのに歯医者に行く必要があるのかと最初は思っていました。それは大間違いで、唾液や空気中の感染症対策として、歯のケアは重要なんです。月に1回、歯石を取りに行っています」

真輝さんが口から食事をとれる可能性について、野田さんはこう率直に語る。

「血は繋がっていないけれど、彼は母親である私譲りの怠け者なんですね。真輝にとって口に物を入れるというのは、歯医者さんによると『一般の人にとってみたらコンクリートを口に入れる』ような感覚だそうです。

胃ろうで胃へ直接栄養を摂取する方が息子にとっては楽だと思います。味覚が育っていないし、物を摂取するという本能が育っていないので。となると、無理をしてまで『食べる』という行為はしたくないでしょう」

とはいえ、学校では友達と一緒にスープを飲むこともあるという。

「仲間外れにされたくない意識があるのか、『今日は3杯おかわりしました』と連絡帳に書かれていて。家では見せない顔があるみたいです(笑)」

仲良し親子の真輝さん(左)と野田さん(本人提供)
仲良し親子の真輝さん(左)と野田さん(本人提供)
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また、先日は放課後のデイサービスで、さくらんぼのゼリーを食べたことも。

「担当してくれたのが彼にとって好みの先生だったらしく、それで食べたようです。結構カッコつけるんですよ」と野田さんは苦笑いする。

そんな真輝さんは現在、お笑いに夢中だ。YouTubeでお笑い動画を見ることが大好きで、「推し」はお笑い芸人の中川パラダイスさんだという。

「親の贔屓目かもしれませんが、天性のお笑いセンスがあるんです。叱られても周囲を笑わせるし、これだけは教えて身につけられるものじゃない。これも私に似たのか、出たがりですしね。TikTokの動画アップにも興味を持っています。

障害を持っていると『純粋で天使のよう』というイメージを持たれがちですが、本当に嫌な男ですよ(笑)。人を騙そうとするし、嘘もつく。人間の邪な部分もしっかり全部持っているんですよ」

そう冗談めいて我が子を語る野田さんは、とても優しい眼差しであった。

後編では、真輝さんを公開している理由と、自身の役割についてうかがう。

PROFILE●野田聖子(のだ・せいこ)●衆議院議員。1960年生まれ、福岡県出身。1987年、史上最年少の26歳で岐阜県議会議員に当選。1993年に衆院議員に初当選し、現在11期目。郵政政務次官、郵政大臣、自民党政務調査会副会長、筆頭副幹事長などを歴任。自民党離党、復党を経て、総務大臣、幹事長代行、内閣府特命担当大臣(地方創生、少子化対策、男女共同参画)を歴任。人口減少問題をはじめ女性活躍や多様性社会の推進などに取り組んでいる。2011年に長男・真輝さんを出産。近著に『女性議員は「変な女」なのか』(辻本清美議員との共著・小学館)などがある。

取材・文/木原みぎわ 撮影/齋藤周造