第一次産業による過疎化

しかも、第一次産業の振興は過疎化につながる。まず、農業は広大な土地を使う。使い勝手のよい平坦な土地は農地で埋め尽くされる。おのずと農村地域の人口密度は低くなる。また、近年は農業技術の進歩と機械化で農作業の人手が減っている。より人口密度が低くなる。

次に、畜産業は匂いの問題がある。私の調査地域は畜産が盛んで外部者から「糞の匂いがする」とよく言われる。かつては糞の匂いなど気にしなかったのに近年は住民でさえも匂いを嫌がる。

近所からのクレームで家畜を手放す事例が増えた。現在の畜産業は人家の少ない地域でないと行えない産業だ。当然ながら人口密度が低くなる。

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さらに、漁業や林業を含めて第一次産業は、その社会的役割の高さに比べて職業威信が低く生活が不安定だ。若者を惹きつける力に乏しく、若者の転出でやはり人口密度が低くなる。

つまり、どのように考えても第一次産業の振興で人口が増える訳がない。過疎地域の成長と発展を本気で目指すのなら、今すぐにでも第一次産業から撤退し、アートとサイエンスに特化した第三次産業に転換したほうがよい。

ところが、中央集権はそれを許さない。「のどかな田園風景」「美しい日本の原風景」といった文言を並べて過疎地域に食料の安定供給を求める。

それは国家として当然の行為でもある。食料の安全保障という側面で考えた場合、過疎地域の人口減少を容認して、第一次産業の推進を図るのは理に適う。過疎地域はその役割を60年以上にわたって粛々と引き受けてきた。

食料の買い占めが起こっても対応できるよう、低賃金で農地を維持している。だからこそ、読者の皆様に伝えたい。

国家を縁の下で支えている過疎地域を国民全体で守るのは当然だ。