手取りで約175万円というのが相場

ところが、農業は経費負担が重くのしかかる。たとえば、種苗・肥料・飼料・機械・耕具・衛生・修繕・光熱・荷造・運賃・手数料・共済金等がある。それらの経費を差し引いた所得は年収の半分くらいになる。手取りで約175万円というのが相場だ。それゆえ、経費の水増しで節税を図る農家は多い。そうしないと生活が破綻して農家を続けられない。

私の調査地域では、サツマイモ・お茶・ピーマン等の栽培が盛んだ。役場はピーマン栽培を行う移住者に支援金を給付している。ある農業移住者に「どうしてここに移住したのですか」と質問したところ、「支援金が一番高かったから」とのことだった。

また、ピーマン栽培は夏季に2カ月の休閑がある。長期の休みが取れるのは大きな魅力だ。ただし、ピーマンはアメリカ大陸の熱帯地域の作物なので、同様の環境を整えるためビニールハウスで栽培する。

支援金があっても、資材や機械等の設備投資で3年間は赤字になる。ピーマンに限らず、新規農家は利益が出るのに4年かかる。

本来、農業は平野で行うのが効率的だ。ところが、山岳国家の日本は平野の面積が限られる。かつて農地として利用されていた平野は、日本の近代化に伴って工場や住宅に取って代わった。

日本の農家の手取りは実質175万円「儲け過ぎ」批判のあるアメリカ、手厚い補助金のある西欧と比べて極端に厳しい実情_2

農業従事者たちは中山間地域の山林を切り開いて、新たな農地を手に入れるしかなかった。その中山間地域は高低差があるので農業に不向きだ。日本の農家は広大な平野を持つ国々との国際競争にとても太刀打ちできない。

日本で広大な平野を持つのは北海道くらいだ。じつは、北海道とそれ以外の地域では農家の平均年収が2倍近く違う。北海道は農地の生産性が高く、先進的な農家はAIロボットやIoT等のスマート農業にも取り組んでいる。その一方で、中山間地域の農家は汗水垂らして働いてもたいして儲からない。