失敗する移住者たち

過疎地域の住民は排他性をそれほど持っていない。移住者の受け入れについて尋ねると、「あまりよそから人が来てほしくないです。でもよそから人が来るのは別に構わないです」と言う。そこで、「移住者はどういう人がよいですか」と質問すると、「地域愛のある人です。他は何も要らないです。でも犯罪者は来てほしくないです」と言う。ほぼ全員が同じように答える。

つまり、移住者を望んではいないが、移住したいのなら受け入れる。その代わり、地域の風土的個性には従ってほしいと考えている。

人口が多い都市部では気が合う友人や知人を自分で選べる。ところが、人口が少ない過疎地域では狭い範囲の中で、友人や知人がおのずと決まる。気が合わない者と付き合うのは誰しも難しい。

そこで、相手に気を合わせるのではなく、「地域の風土的個性に気を合わせる」という手法を取っている。

役場の職員採用についても同じだ。その選考基準は「深い郷土愛を持ち、地域に根差した人材」である。要するに、地域の現状に好感を持っていて引き続き保ちたい者になる。地域に不満を持っていて変化を望む者は選考から外れる。

じつは、移住者が地域に馴染むのは簡単だ。住民は暇を持て余しているので積極的に世話を焼いてくれる。農作物のお裾分けもあるし、野焼きの方法や地域の穴場も教えてくれる。ただし、地域の風土的個性に逆らう行為は許されない。

都市から田舎への移住が失敗するのはなぜか?「都会で悪いことをして逃げてきた」火のないところに煙を立てられた夫婦の苦悩_1
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次のような失敗事例がある。ある夫婦が自然に囲まれた生活に憧れて過疎地域に移住した。移住先の決め手は支援金と就業先の斡旋だった。夫は地域づくりを担う企業で働くことになった。妻は小学校の教員になった。自宅は古民家を購入してDIYで修繕した。庭の畑で自然農法の野菜づくりにも取り組んだ。住民との関係は良好で、それらの作業を手伝ってくれた。