「アシックス里山スタジアム」メイン側座席に立つ岡田会長。ここからは今治の街と瀬戸内海を望むことができる。(写真/近藤 篤)
「アシックス里山スタジアム」メイン側座席に立つ岡田会長。ここからは今治の街と瀬戸内海を望むことができる。(写真/近藤 篤)

得意のペペロンチーノをサポーターに

10月1日には新たな動きがあった。地球温暖化、貧困、孤独といった環境及び社会課題に取り組むべく、アシックス、デロイトトーマツなど6社と「FC今治コミュニティ」づくりを進めるコンソーシアムを立ち上げることを発表した。

衣食住を保証しあうベーシックインフラを中心とする共助のコミュニティを具現化するプロジェクトになる。

「アシックス里山スタジアムという目に見える拠点ができたことで、今まで言ってきたことが具体化して“そういうことか”と手触り感が出てきた。これは大きな変化。このタイミングだからFC今治コミュニティの発表もできた。

もっと早くやっていたとしたら、なかなか現実的にイメージしづらいところがあったかもしれない。

FC今治高校の生徒を中心にそのコミュニティづくりを進めていき、それを大人が応援するというスキームを今考えている。トータルで見渡してみると順調に段階を踏んできているなと感じているね」

スタジアムのコンセプトにも、共助の精神が反映されている。ここにはスタンドとピッチの間に、柵が設置されていない。構造上は観客がスッとピッチに入れてしまうわけだが、無論そういったことは起こらない。

「お金を掛けたくなかったから」と岡田は笑った後でこう続けた。

「スタジアムの理念をここに集まる人すべてが大切にしてくれている。そういうことなんじゃないかな」

ファン・サポーターに感謝の思いを伝えるイベントでは、得意のペペロンチーノを自ら調理して来場者に振る舞っている。

今治の地にやってきたときに一軒家を借り、コーチ陣とシェアハウスしていた。サッカーのメソッドづくりについて、クラブの取り組みについてコーチ、社員たちと喧々諤々、語り合った。

ペペロンチーノは岡田ハウスと呼ばれるようになったその場所で、集まってくるみんなのお腹を満たすために提供した思い出の一品でもある。

「近所のサッカー仲間もみんなウチにやってきて、夜な夜な延々しゃべって。鯛めしつくってくれたり、刺身を持ってきてくれたり、みんなでガヤガヤやりながら。まあペペロンチーノは安くて、一番手っ取り早いから(笑)。今回みんなが食べたいっていうから、久しぶりにつくってみただけだよ」

あの涙のスピーチには続きがある。

「(自分を信じてついてきてくれた)この人たちを絶対に裏切らない。我々はこれからまだまだ前に進んでいかなきゃならない」

共助のコミュニティという大望を実現するために――。10年前とまったく同じ、いやそれ以上の熱を持つ68歳の岡田武史がいる。

11月17日。感謝の集いで会長自らペペロンチーノをファン・サポーターにふるまう。岡田の目指すコミュニティづくりの一端も感じられた。(写真提供/FC今治)
11月17日。感謝の集いで会長自らペペロンチーノをファン・サポーターにふるまう。岡田の目指すコミュニティづくりの一端も感じられた。(写真提供/FC今治)
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取材・文/二宮寿朗 撮影/近藤 篤
※「よみタイ」2024年12月29日配信記事