伯母の牧師が「ユーチューバーのために金をまいた」
一方、捜査も順調とは言いがたい。
「今回の戒厳令は、戦時などに限られた宣布条件を満たさず、戒厳時も許されない国会制圧を図った点で違憲、違法の内乱だとの見方が大勢を占めています。
最高刑が死刑の内乱罪は大統領の不逮捕特権も適用されず、“内乱の首魁(親玉)”と呼ばれている尹氏は逮捕されるでしょう」
そうソウル特派員は話す。実際、軍幹部や国会封鎖を試みた警察庁長官らの逮捕が連日報じられている。だが捜査の現場は尹氏の断罪を目指す側と、尹氏の“親衛部隊”との攻防の場になっている。
「内乱罪の捜査権は警察にあります。警察は今回、高官捜査の専門組織『高位公職者犯罪捜査処(高捜処)』と国防省との3者で共同捜査態勢を取り内乱容疑を調べています。ところが、内乱罪の捜査権がない検察が、職権乱用罪の捜査だとして軍高官の逮捕や関係先の家宅捜索を行なったのです。
それはなぜか。尹氏は検事総長出身の検察一家のトップです。検察は親分を守るため、証人の口止めや証拠隠滅を図った疑いがあり、18日になって事件を公捜処に引き渡しましたが証拠がどれだけ荒らされているか分かりません」(韓国政府筋)
憲法裁の判断によってはありえる尹氏の大統領権限復活を止めるには、判断の前に内乱罪で逮捕、起訴する必要がありそうだが、その捜査も妨害を受けてきたわけだ。尹氏が再び権力を持てば、世論も国会もついてこない中で国政の麻痺は必至。そうなれば再度戒厳を企ててもおかしくない。
尹氏は警察側の出頭要請を拒み、捜査に徹底抗戦の構えだ。その尹氏はなぜ12月3日に戒厳令に突っ込んだのか。
「尹氏は数ヶ月前から戒厳令に言及していたことが最近分かってきましたが、12月3日は『ソウルの声』というネットメディアが尹氏に大打撃を与える特ダネを午後8時に出したんです。戒厳令の宣布2時間半前のことです」(韓国メディア記者)
特ダネとは大統領夫人、金建希氏の伯母である極右の金恵燮(キムヘソプ)牧師が、親戚に「ユーチューバーたちの管理を後ろで私が全部やってる。3億7000万ウォン(約3700万円)使った。だれがタダで動いてくれる? 今考えると、尹錫悦を大統領にするために、神様は私を牧師にしたんだよ」と話したことを暴いたもので、音声も公開された。
2022年の大統領選で尹候補に有利な世論を作るためユーチューバーに金をまいたという内容だ。事実なら公職選挙法違反で、尹氏は大統領の当選無効もあり得る。
「戒厳令の準備は数日前に始まっていましたが、この報道が出ると知ったことが引き金になったのかもしれません」