同性介助が理想…だけど、圧倒的に足りないヘルパーの人数
藤原さんは、セクハラやそれに伴う「ヘルパー難民」問題の背景には、ヘルパー不足があるという。
2024年のヘルパーの有効求人倍率は、15.5倍で、成り手がいない状況が続いている。
「ホームヘルパーの7割はパートタイムの登録ヘルパーで、時給はよくて1400円から1500円です。しかも、移動時間やキャンセルになったとしても、利用者宅から別の利用者宅への移動時間は、無給です」
介護・福祉の世界では、同性が同性をケアするのが望ましいとする「同性介助の原則」があるが、それは介護現場の実態とは異なる。
「特にホームヘルパーの世界は女性が圧倒的に多いです。それは、暮らしを支える生活支援(家事のサポート)が6割方の仕事だからです。
増えてきているとはいえ、男性は少ないです。同性の前でならば裸でも問題ないでしょうが、どうしても数的に異性が介助をすることになります」
また、世界各国のホームヘルパーサービスを視察してきた藤原さんは、日本の政策の遅れや人権意識の低さを指摘する。
「日本では、1つの訪問介護事業所を作るのに、2.5人で作れるというのが厚生労働省の基準としてあります。ですが、現実には、その人数では、根本的なハラスメント対策はできません。
韓国では、その基準が15人に変更されました。最低、それくらいの人数がいないと、取り組めない難しい課題です。
また、日本では高齢者の性の問題は語りにくい空気があります。介護職の資格の教科書でも、高齢者の性に関する部分は数ページです。韓国では、介護士向けの教科書で、1章を割いて、高齢者と性を勉強します。
高齢者と性の問題は、本能的な問題です。特に若い人が業界に入ってきて驚かないように、教育システムの充実も大切だと思います」
EUでは、同一の仕事内容ならば同一の賃金を支払うべきという、「同一労働同一賃金の原則」を重視し、看護師と介護士は世界基準で同一の待遇を受けている。日本では、介護職の賃金は低い。
これでは、進む高齢化に対応できるだけのヘルパーの確保は難しい。
「日本は文化的に、性的なことは秘められるべきという考えが強いです。だから、ヘルパーたちが被害にあっても、相談しにくいです」
だが、本来サービスが必要な高齢者・それを介護するヘルパーのどちらの人権にも配慮しなければ、双方が不利益を被る状況は変わらない。
セクハラとヘルパー難民の根本的な解決には、介護職への待遇やヘルパー側の教育システムの見直し、メンタルケアの充実が急務だ。
取材・文/田口ゆう