打撃投手が見る「これまでで一番スゴかった打者」
やはり奥の深い打撃投手の世界。ちなみに、打撃投手をしていて、今までで一番スゴイと思った打者は?
「バリー・ボンズですね。2002年に、日米野球が福岡ドーム(現みずほPayPayドーム福岡)で開催されたので、本拠地チームの打撃投手として私が担当したのですが、あれが一番ビビりました。
見逃すかなってタイミングで振り始めて、それがライトポール際のスタンドに飛んでいくんです。ボンズは左打者なのにですよ? スイングスピードがエグかったんでしょうね」
2024年の日本シリーズ。そのバリー・ボンスもアーチを描いたみずほPayPayドーム福岡で、まさかの3連敗を喫してしまったソフトバンク。逆転日本一へのカギは3試合でわずか1得点となりをひそめてしまっている自慢の打線の復活だ。
「我々打撃投手がホークス打線を支えてると勝手に思ってます。実際はそんなことないと思うけど(笑)、そのくらいの気持ちでいます。試合前の打撃練習は野手にとってそれだけ重要な時間ですから」
打撃投手の1日の投球数は20分で約100球。球数だけなら先発投手とそう変わらない。それをホームビジターかかわらず年間143試合分こなす。
勤続25年。キャンプや自主トレも加えれば、これまで投げた球数は単純計算で40万球は下らないだろう。
投手を始めて一度も肩やひじに大きな故障を負ったことがなかった濱涯さんだが、今年初めてひじに関節鼠(ねずみ)が見つかった。
「体が丈夫なことだけが私の強み。オフにクリーニング手術をして、来年2月のキャンプには間に合わせますよ。故障したら終わりの打撃投手なのに、こんな年になるまで面倒見てもらって球団には感謝してます。
目標? とりあえず還暦を目指すけど、いけるところまで1年でも長く投げ続けたい。ロッテに福嶋(明弘)さんという57歳の打撃投手もいますから、私もまだまだ負けてられません」
選手じゃなくても生涯現役。濱涯さんはこれからも打たれ続ける。
取材・文/武松佑季