「彼女が生きていたら言いたい。生き急ぐな」
2008年2月、グラミー賞授賞式。ドラッグ問題でアメリカに入国できなかったエイミーは、ロンドンのスタジオから衛星中継で参加。
この時、ビヨンセ、ジェイ・Z、ジャスティン・ティンバーレイクら強力な候補者を抑えて、シングル・オブ・ジ・イヤーなど5部門を獲得。受賞の瞬間は感動的だった。
「レコード会社の成功は私の成功じゃない。私の成功は仕事する自由を持つこと」
その言葉通り、次のアルバム制作に専念するためにエイミーは活動を休止。友人たちに囲まれて、島国セントルシアで半年間生活。ブレイクと離婚し、曲を書くことによって心の葛藤や苦しみを乗り越えようとするエイミーがいた。
プロデューサーのマーク・ロンソンが証言する。
「僕にとっては魔法のような時間で、彼女も意欲的に仕事した。だから噂が理解できなかった。なぜ優柔不断な問題児と言われるのか」
2011年3月。憧れのジャズ歌手トニー・ベネットとスタンダード・ナンバー『Body and Soul』をデュエット。夢のような時間の中で素晴らしい歌唱を録音する。
6月、本格的復帰を目指してツアーを開始。しかし、酔っ払ってステージに現れてまともに歌えずブーイングの嵐。悲しいことにアルコールへの依存は断ち切れていなかった。
そして7月23日。心臓発作により自宅で亡くなっているのが発見される。享年27歳。12月に遺作『Lioness:Hidden Treasures』がリリースされると、全英1位に輝いた。
最後はトニー・ベネットの言葉で締めくくりたい。
“彼女は紛れもない本物のジャズ歌手だ。エラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリデイに匹敵する素晴らしい才能だった。彼女が生きていたら言いたい。生き急ぐな。生き方は人生から学べると。”
文/中野充浩/TAP the POP サムネイル/Shutterstock
参考・引用/映画『AMY エイミー』(2015/AMY)