被害者男性から釈放祝いのプレゼント

さらに気が動転した関川さんは救急車と間違えて警察に連絡をしてしまい、事件となってしまったというわけだ。刺されたAさんはICUで治療を受け、意識を取り戻したのは2日後だった。

全治3ヶ月の重症で現在も通院中の身。しかし、「訴えようとか被害届を出そうとか思ったことはない」とAさんは関川さんを咎めることはしない。

「あれはただの口論の延長で、ナイフもたまたま当たっただけ。包丁を持ち出すこと自体、一般の人には理解されないと思うけど、俺と関川はそういう関係なんだよ。

刺された瞬間? 痛いというより熱い感じだったな。先生にも『かなり危ない状況だったよ』と言われたけど、別に関川はわざとやったわけじゃないし、あれはただの事故だよ」(Aさん)

包丁のしまい忘れには細心の注意を払っているという(撮影/集英社オンライン)
包丁のしまい忘れには細心の注意を払っているという(撮影/集英社オンライン)

こうして12月21日付けで不起訴処分となり、翌日に釈放された関川さんは、3週間後に「せきどん」を再開。退院したAさんと久しぶりに再会したときは、「おわー、大丈夫だったか?」とお互いの肩を叩き合い、「釈放祝い」としてタバコを1箱プレゼントされたという。

警察に処分されたペティナイフの代わりに新調した包丁は、しまい忘れないよう細心の注意を払っている。

なんとなく美談におさまったような形だが、しかし、世間はそうは見てくれない。

「売上は4分の1になりましたし、ここがオープンしてからずっと来てくれてた常連さんも来なくなりました。おまけに事件直後は、通行人がうちの看板をバシャバシャと写真を撮ったり、酔っぱらった若者が『ここだよ、ここ!』と入ってきて、『牛刀出せよ!』とからかわれたりと散々な目に遭いました」

それでも関川さんは「もし店をやめたら、罪を認めたみたいになるから絶対にやめない」と前を向く。

「この記事で『せきどん』を知った人はぜひ一度、食べにきてほしい。うちは国産豚にこだわったトンカツやポークソテーが売りですよ!」

「せきどん」自慢のとんかつ定食
「せきどん」自慢のとんかつ定食
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今度はその料理の腕前で、世間から注目を集めてほしい。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班