アーミテージ・ナイ・リポートの衝撃
2012年8月、日本において民主党政権がまだ続くと大方が予想し、安倍氏の復権、復活などおよそ想像する向きのなかったとき、米国からひとつ日本に痛棒がくだった。
いわゆる「アーミテージ・ナイ・リポート」の最新版が出て、そこで日本はいったい米国とまともに組む資格をもつ「ティア・ワン・ネーション」か、と問われたのである(RichardL.Armitage and JosephS.Nye,The U.S.-Japan Alliance: Anchoring Stability in Asia)。
「ティア・ワン・ネーション」とは要するに「一等国」である。日本は本当に一等国なのかと問われたわけだった。いま同リポート冒頭部分からいくらか引用しておくと、
一等国とは、経済において相当の重きをなしつつ、能力の高い軍事力をもつとともに、視野においてグローバルで、国際問題に関して誰もが知るリーダーシップをもつ国をいう。〔中略〕米国がこの意味で一等国であり続けることに疑いを挟む余地はないとして、日本には決断が必要だ。日本はいったいこの先も、一等国であり続けようとするのか。それとも、二等国の地位へずり落ちることに甘んじてしまうのか。
とそう鋭く日本に迫ったうえ、日米の同盟は日本がまともな一等国であって初めて成り立つことを強く示唆した。
すぐさま感じられるとおり、不出来な息子だか、娘だかに説教する父親然とした、パターナリズム(父権主義的押しつけがましさ)の臭いがここにはある。
だとしても、ついに問われるべき問いが米国知日派の核心から出たという感じがあった。
リチャード(リッチ)・アーミテージ氏は元海軍軍人。主に共和党政権の要路で日米同盟の強化に腐心した。一方のジョゼフ(ジョー)・ナイ氏はハーバード大学教授で国際関係論の大御所。「ソフト・パワー」概念をつくったことで名高いが、こちらは民主党政権に加わり同じく日米同盟の維持強化に意を注いだ。
二人とその周辺を取り巻く集団の意識こそが、民主党であれ共和党であれ、ときの政権の対日アプローチを決定づける。
日本は「セル」ではない、「バイ」なのだ、ゆえに日米同盟はいよいよ堅固なのだと、こここそは安倍総理によるワシントン政策コミュニティに向けた「投資家広報」が必要な場面だった。