“前借り”して試合をやってしまう才能

ところが、三原は力を振り絞って復活を遂げた。まさに命を削るようで、その破片が煌めくような演技だった。ギリギリまで体を酷使しているのに、凛として気丈に見える。そして12月の全日本選手権では、5位に食い込んだ。

「(三原)舞依は“前借り”して(試合を)やってしまう。ただ、それをやった後はしばらく何もできなくなる。人間ってその時に動ける量よりもたくさん使っちゃうと、後がもたない。そこまでやれてしまうのは、集中力の才能」

三原を指導する中野園子コーチの言葉だ。

半ば命がけで、「氷上の天使」は笑顔になる。

「スケートを滑るのは楽しくて、自然と笑顔になれます! 私が目指すスケーター像は、見てもらって感動して元気になってもらえる、笑顔になってもらえるもので。私が(浅田)真央ちゃんを見てスケート始めたように、誰かを笑顔にできたり、感動を与えられたりするスケーターになれたらいいなって思っています」

それが三原の信条だ。

笑顔の代償はいくらでも払う。自分自身に対しては容赦ない。恵まれているとは言えない体躯を、圧倒的な集中力によってトレーニングで追い込める。試合と同じ真剣さだからこそ、かつてエキシビションで滑った「シンデレラ」が彼女の姿に重ね合わせて語られ、おとぎ話のような演技も生まれるのだ。

しかし、勝負の世界は非情である。

2021年12月の全日本選手権では4位と健闘したが、惜しくも北京五輪代表からは外れることになった。

「ノーミスができなかった悔しさはあります。でも、そのなかであきらめずに滑りきれたのはよかったかなと思います」

三原は言葉を絞り出した。

「日頃の練習から集中してやっているので、切り替えはうまくなったと思います。今日もミスのあとは切り替えができて、そこは強くなれたところで。客観視した時、自分のここがダメというのは頭に浮かんでいるので、そこをしっかりやっていきたいです。(病気や復帰など)いろいろあっても少しは前に進めたので、プラス思考に捉えようかなって」

病気から1年半のブランクで復帰し、極限まで追い込んで(長時間の練習には肉体が耐え切れない)、そこまでグランプリシリーズ2大会で4位と、一つ一つ積み重ねてきた。

思えば前回の平昌五輪も、代表選考がかかる全日本選手権で5位に終わり、あと一歩のところで夢を逃した。その喪失感は、本人にしか知る由はない。フリーでのアクセルジャンプのミスは、いつもならしないはずのものだった。