「助けてあげなきゃいけないんじゃないの?」
その日の夕食どき。
「なんで、あいつはハサミがなかったんだろうね?」
チビが僕に聞く。
「うーん。右のハサミがなくて、体の右側をケガしてたから、きっと大きな魚か何かに右側を襲われたんだよ」
あのときは考えてもいなかったけど、冷静に分析すると、そうだよな。
「そうか、きっとそうだね」
「だから、うまく動くことができなくて、エサが取れなくて、おなかがペコペコで。だからカンタンに釣れちゃうんじゃないかな?」
僕がさらに推理を深める。
「アイツは弱いザリガニだからおなかがペコペコだったのか! じゃ、助けてあげなきゃいけないんじゃないの?」
チビのその一言は僕の脳天に強烈な一撃を見舞った。
「そうだ。オマエの言うとおりだ。パパは元気なザリガニを持って帰りたいと思ったけど、元気なザリガニはあの川で元気に暮らせるもんな。でも、あのザリガニはあそこではなかなかエサが取れないから、俺たちで面倒見てやらなきゃいけないのかもね。パパは逆のことを思ってたよ」
チビはときどき、僕が忘れているとっても大事なことを思い出させてくれる。
汚れてしまった僕の心を浄化してくれる。
「よし、こんどのお休みにもういちどバカザリガニを釣りに行って、うちで飼おう!」