才能のある人は、それを磨く使命があります

昔、ロシアの有名なバレエダンサーが来日したとき、日本のインタビュアーがこんな質問をしました。

「ロシアのバレエと日本のバレエはどこがどう違うのでしょう?」

彼はこう答えました。

「あなたの国では、バレエを好きな人が踊ってらっしゃる。でも私の国では、バレエを踊らなくてはいけない人が、踊っているのです」

言いえて妙ではありませんか。バレエだけではなく、音楽や演劇、美術、芸術など特殊な技能を必要とする世界では、才能のある人間こそが、その仕事に取り組むべきなのです。私は歌が好きで、歌う才能を与えられました。その才能を生かすのが使命だと思うので、仕事にしました。

ですが、天職だからといって、楽をしているわけではありません。人気の浮き沈みも経験していますし、私のスタイルを理解してもらうまで、長い時間がかかりました。

二十代のころの私は、人々に喜びを与え、美しい真実を表現する美しい俳優になりたいと願っていました。歴史を勉強して歌舞伎の創始者である出雲の阿国や女方を極めた芳沢あやめという歌舞伎役者のことを知り、目標としました。マレーネ・ディートリッヒやグレタ・ガルボなど美しい女優たちの演技やしぐさ、表情を研究して頭の中に叩き込み、栄養にしました。暮らしを切り詰めてお金をひねり出し、日本舞踊からモダンダンス、発声練習にセリフ術、三味線などなど、ありとあらゆるお稽古事に通いました。

そうやって得た知識はすべて、今の私の血肉になっています。そしていざ舞台に立つと、限界まで肉体を酷使して、すべてを歌に捧げるのです。

才能に恵まれ、それを仕事にした人には、さらに才能を磨き上げる使命があるからです。努力をしない人間は、どんなに才能があっても、落ちぶれていくばかり。やがて才能からも仕事からも、見放されてしまうのです。