これがスポーツと文化に対する、スズキの姿勢なのか

土曜の予選でミルは2列目6番グリッド、リンスは3列目7番グリッドを獲得し、日曜午後2時(日本時間午後9時)にスタートした決勝レースでは、両選手は序盤からトップグループに食らいつく気迫の走りを見せた。だが、ともに転倒を喫してリタイア。

「バイクは戦闘力が高く、今週はうまく走れていたので表彰台を獲れると思ったけれども、ブレーキングでミスをしてしまった。でも、苦しい状況のなか、チーム全員がいつもと同じような士気を持って戦えた」(ミル)

「週末を通して力を発揮できていただけに、残念な結果。チームはもう来年がないという状態で集中するのは大変だったと思うけれども、雰囲気はとても良く、全員が高いモチベーションでがんばってくれた。本当に感謝している」(リンス)

もしも両選手が揃って表彰台を獲得する劇的な結果に終わっていれば、浜松本社の撤退意志に対して叛骨心を示す絶好の機会になっていただろう。しかし、現実はドラマの筋書きのようにはなかなか運ばないもので、その意味では歯がゆい結果というほかない。だが、そんな予定調和ではないところにこそリアルなスポーツの魅力がある……というのはやや強弁に過ぎるだろうか。

MotoGPからの撤退でスズキが失った「有形無形の財産」_d
これまで数々の名選手や現役ライダー、彼らを支えるチームスタッフ、そして技術者たちの熱意が、世界中の〈鈴菌〉たちを惹きつけてきた。あと14戦で、このチームはMotoGPの世界から姿を消す……

今回のフランスGPは残念な結果に終わった。とはいえ、スズキを応援する人々は、英語表記では”Suzu-King”、日本語では〈鈴菌〉と自称するたくさんのファンが世界中にいる。彼ら彼女たちは、この1回のリザルトでチームと選手たちを見放すようなことはけっしてしないだろう。

だが、MotoGPから撤退するという企業の意志決定は、1960年のマン島TTレースに参戦を開始して以来、世界グランプリというスポーツ文化の中で連綿と培ってきた有形無形の財産を、自分たちの手で断ち切ってしまうことでもある。

そのような醒めた行為は、自発的に手弁当で応援してくれる熱心な企業応援団(≒潜在的購買者集団)、という何ものにも代えがたい大きな財産を自ら手放してしまうことにもつながるのではないか。

それを承知のうえで、それでも「近年の自動車産業界が直面している大きな変化への対応を加速するため」に「資金と人的資源を新技術の開発に集中的に投入して」いくのであれば、それがスポーツと文化に対する現在のスズキ株式会社の姿勢、ということなのだろう。

写真/MotoGP.com