あまりに間の悪かった発表
スズキが今シーズン末でMotoGPからの撤退を検討している、と正式に発表したのは、第7戦フランスGPの走行が始まる前日の5月12日(木)だった。
MotoGPのレーススケジュールは金曜に練習走行、土曜に予選、そして日曜日の午後に決勝レースが行われる。走行前日の木曜は、週末の戦いへ向けて各陣営が戦闘意欲を高めていく、まさにそのとば口だ。
そんなタイミングで撤退を検討しているという発表を行うことはチームとライダーの士気を削ぐ、あまりに間が悪い発表に見える。だが、この間の悪さは、レースウィークに唐突に発表を行ったことではなく、むしろ、くすぶり続けた噂を10日間ほども放置した後に、ようやくレースが行われる週末になって後追いで是認したことのほうにある。
この噂がどのように登場し、なぜレース界と世界中のファンをこんなにも困惑させたのか、という経緯とその詳細については、集英社のサイト「新書プラス」に5月9日に寄稿した記事をご参照いただきたい。
そして、木曜午後5時(欧州時間午前10時)のタイミングで、スズキがついにプレスリリースを発表したわけだが、公式声明発表まで長い日数を要したにもかかわらず、内容はじつにあっさりしたものだった。あまりに短い文章なので、以下にその全文を引用する。
スズキ株式会社は、ドルナスポーツと2022年末で同社FIM※ロードレース世界選手権(MotoGP)参戦を終了することについて協議しています。
現在の経済情勢と近年の自動車産業界が直面している大きな変化への対応を加速するために、スズキは、資金と人的資源を新技術の開発に集中的に投入していきます。
これまでスズキの二輪レース活動を支え、温かい声援を送っていただいたファンの皆様に感謝申し上げます。
※FIM(国際モーターサイクリズム連盟)
上記リリースの1段落目は「参戦を終了することについて協議」と、やや留保するような言い回しで、必ずしも決定事項ではないと読めなくもない。だが、それに続く3段落目の文言がまるで別れの挨拶であるようなところから判断すると、やはり内々ではMotoGP活動終了を決定しているのだろう。