教育虐待をする親に見られる「ASD+高学歴」

その後、憲吾は大学へは進まずトラック運転手をして生活をした。実家からの金銭的支援もあり、結婚して息子の崚太君をさずかった。すると、憲吾は崚太君を自分と同じ東海中学へ入れると言い出し、自らつきっきりで指導をするようになる。

第3次中学受験ブームの中、エスカレートする教育が虐待へとつながる社会背景と…教育虐待をする親に見られる「ASD+高学歴」_2

この時、憲吾はASDの特有の強いこだわりを崚太君への指導に向けた。ASDの強いこだわりとは、家具の位置をミリ単位で決めて少しでもズレると直さずにいられないとか、スケジュールを事細かに決めて予定が崩れるとパニックになるといったことだ。彼もまた、そうした傾向があり、崚太君への指導に当たって細かく学習スケジュールを決め、理想通りに行かなければ激昂して、「なんでできないんだ!」と暴力を振るった。

憲吾の教育虐待は受験が近づくにつれて激しいものになっていった。小学6年の頃には包丁を突き付けて、勉強させることが日常になっていた。そしてこの年の夏、ついに事件は起こる。

憲吾は崚太君を指導している際、言う通りにできなかったことに怒り狂って我を見失い、息子を包丁で突き刺したのである。崚太君はそれによって命を落とすことになった。

後の裁判で、教育虐待が起きた一因にASDの特性が関係していることが指摘されたものの、憲吾は殺人罪で懲役13年の判決を言い渡されることになった。次は裁判長の言葉である。

「中学受験の指導の名の下、長男の気持ちを顧みることなく自分の指導・指示に従うよう独善的な行為をエスカレートさせたあげく、衝動的に犯行に及んだ(中略)父親によって命を奪われた長男の驚きや苦痛は察するにあまりある」

これほど過激な事件に至らなくても、取材の最中に何人ものASDの親が教育虐待をする例に出会った。
そうした親たちによく見られるのが「ASD+高学歴」という特徴だ。

発達障害の人は、知的障害とは違うので、必ずしも勉強が不得意ということではない。むしろ、彼らの強いこだわりが学業に向かうとは、その人は勉強にのめり込み、高い学力を有することになる。