奇怪な事件が起きた瞬間を振り返る

2021年10月31日のハロウィーンの夜、映画『バットマン』の悪役であるジョーカーの扮装をした服部恭太被告は新宿行きの京王線に調布駅から乗り込んだ。
電車が発車するとすぐに座席に腰かけていた乗客の70代男性の顔に向かって殺虫剤を噴きかけ、右胸にサバイバルナイフを突き立てた。
突如、始まった凶行に「ヤバイ」「助けて」「早く逃げろ」と車内では悲鳴や怒号が飛び交い、乗客はパニック状態に陥った。

服部被告のいる車両から逃げ出そうと一斉に乗客が走り出す。車両の連結部分にはあっという間に人だかりができて通行するのもままならない状態になったという。
当時、そのときの様子を乗客の男性はこう語っていた。

犯行を起こした直後に車内でたばこを吸う服部被告
犯行を起こした直後に車内でたばこを吸う服部被告
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「私は服部被告が乗り込んだ車両の後方車両にいたのですが、人だかりが襲いかかってくるようになだれ込んできました。
その後ろに金髪の若い男性が威嚇するように刃物を振り回して歩いているのが見えましたが、最初は何がなんだかわかりませんでした。とっさに私も逃げ出しました」

服部被告は車両を移動しながらライター用のオイルをまいて火を放った。炎が立ち上がり「ボンッ」と爆発音が響き、逃げ惑う乗客は混乱をきわめた。
ほどなくして複数の非常通報装置が作動し電車は国領駅に緊急停車したが、ホームドアと列車のドアがずれて停車したため、隙間から線路への転落の危険性から乗務員がドアを開けなかった。

身に迫る危険から逃れるため多くの乗客が列車の窓から脱出する事態となった。
それをあざ笑うかのように服部被告はひとり車内で足を組んで座席に座り、タバコをくゆらせていた。のちにそのときの動画はSNS上に拡散され、緑のシャツと青いスーツを着た服部被告の姿は人々の記憶に深く焼きつけられた。