弟子入りから8年、某有名格闘団体のキックボクシング王者に…
「このままでは、どんどん悪い方向へ行ってしまうのでは…」と、中竹さんの行く末を案じた彼女は、道場の館長に相談した。彼女に呼び出された中竹さんが待ち合わせ場所に行くと、そこに館長が現れて道場に強制的に連れ戻された。
「9か月ぶりに戻った道場で、館長にたっぷりと叱られました。流石にもう真面目にやるしかないと思い知らされて、そこからは本気で格闘技と向き合い始めました」
最初の数年間は、道場が年に2回主催する自主興行の試合にしか出場していなかった。しかし、日々の厳しい鍛錬の成果でメキメキと頭角を現した中竹さんは、興行試合のメインイベントを張るようになっていく。東京から興行に招いた名の知れた選手から勝ち星を上げることもあった。
元々好きで始めたわけではなかったはずのキックボクシングに、中竹さんが真剣に打ち込む原動力は館長の存在が大きかったという。
「厳しい指導を受けることもありましたが、それで結果がでたので、館長の言うことは正しいという感覚がありました。道場で矯正してもらえていなかったら、自分だけでは強くなれなかったと思います。
試合では館長に喜んでもらいたいという気持ちがモチベーションになっていました。勝ったときも、勝って嬉しいという気持ち以上に、『館長に恥をかかせずに済んだ』という安堵の気持ちが大きかったです」
キックボクサー「一刀」の名が徐々に知れ渡っていったことで、新しくはじまったキックボクシングの興業への出場機会を得た。
8人が出場するトーナメントを勝ち上がった中竹さんは見事優勝して、フェザー級初代王者に輝いた。当時27歳。内弟子となって8年が経過していた。
#2へつづく
#2 なぜ元キックボクシング王者のトップアスリートはギャンブル依存症になり失踪したのか?
取材・文/内田陽