先ほど、藤井に勝ち越している大橋の名前を出したが、藤井と4局指して3勝1敗という好成績を挙げているのが深浦康市九段だ。しかも直近の2局は藤井がタイトル獲得後なので価値が高い。藤井を「将棋星人」に見立てて、それに対する「地球代表」という愛称でファンの人気が高いが、最近タイトル戦に絡めているわけではない。それでは、なぜ藤井が深浦に負け越しているのかという疑問も生まれるだろうが、だからこそ将棋は面白い。藤井が絶対に勝つのなら、誰も将棋など見なくなるだろう。

これまで藤井はタイトル戦を7回戦っているが、相手の内訳は渡辺名人と豊島将之九段と3回ずつ、そして木村一基九段が1回だ。

藤井聡太、全タイトル制覇への最短シナリオとその可能性_2
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特に渡辺、豊島とのシリーズは独自の世界観を作り上げていた。豊島とは極限までの没入と読み合い。渡辺とは質の高い準備と、それを強引に打ち破ろうとする中・終盤力のせめぎ合い。ベクトルが与えられた木片を使って勝敗を決めるだけのゲームが、なぜこれほど我々の心を強く揺さぶるのか。将棋の魅力を存分に伝えてくれたタイトル戦だった。

これからも両者は藤井と質の高い戦いを展開するだろうが、戦いが一段落した現状、別の棋士が藤井と熾烈な戦いを繰り広げる可能性を探ってみたい。