移住者に必要なのは「自分を知ってもらうこと」
――温泉は満足ですか?
もう最高です。お湯はもちろんですが、毎日浴場に通っていると、自然と顔見知りができるんです。湯舟に浸かりながら、あれこれと世間話をする時間が楽しくて。まさに裸のつきあい。そのうちに野菜やお手製の佃煮をもらったりするようにもなりました。そんな霧島での暮らしはとにかく時間がゆったりと流れ、とても豊かだなと実感しています。
――お金や利便性には代えられないものが霧島にはある?
温泉だけじゃなく、食べること、眠ること、すべてがストレスフリーで、東京での暮らしより、生活を大事にできている感じですね。たとえば、コンビニまで車で行かなければならない霧島での暮らしは一見、不自由に見えます。都会のように出来合いのものを高い値段で買って食べることも減りました。
畑で摘んだばかりのルッコラに近所の牧場で買った生ハムを乗せ、そこにフレッシュなオリーブオイルをかけて食べるなんていう贅沢もできる。こんな食生活、都会では難しいですよね。
そんな体験をするうちに、今ではお金で利便性を買っていた都会での暮らしが不思議に見えるようになりました。流行に合わせて毎シーズン、服を買い替えるようなこともなくなりました。
――移住のコツがあれば、伝授してください。
コツというより、心がけになりますが、まず自分を知ってもらうことです。会う人、会う人に笑顔で接することを大切にしています。なにしろ、こちらは地域が育んできたコミュニティにお邪魔をする立場なのですから、笑顔で謙虚に地域に馴染むという努力は欠かせません。
あとは郷に入らば、郷に従えです。自治会や寄り合いにできるだけ顔を出し、自分の仕事だけでなく地域の活動にも汗を流す。それも今だけのことでなく、20年後、30年後を見据えて動くことが大事だと思います。
地方はどこも人口減少が続いています。20年後、30年後でも移住先のコミュニティが存続できるよう、一定の役割を果たすという覚悟をする。その覚悟を移住先の人に感じてもらうことができれば、地域の一員として迎え入れてもらえるのではないでしょうか。
撮影/村上庄吾