警察はハトの解剖もおこなった

事件から約1ヶ月ほど経った平日の朝10時。この時間、現場にハトは一匹もいない。事件当日の様子を目撃していた付近の駐車場係員に聞いた。

「あー、今の時間はまだ早いです。ハトはいつも昼の12時ごろに集まるから。この道路脇の木から落ちる実を食べに来るみたいで。事件当日は僕も見てましたが、確かにあのドライバーは急発進してハトを轢き殺しましたけど、この道路ではこれまでも何匹ものハトが轢き殺されてますからね。なんで今回だけ逮捕となったのか…」

社会部記者が解説する。

「運転の模範を見せるべき立場であるプロのタクシー運転手が、徐行やクラクションを鳴らしたりもせず、スピードを出してハトを轢いた。新宿署は本件を立件するために轢き殺されたハトの解剖もおこなっている。最近、野生動物に対する虐待事件も続いており、警察も厳しい態度で挑んだのでしょう」

現場周辺にいたハト(撮影/集英社オンライン)
現場周辺にいたハト(撮影/集英社オンライン)
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確かに、今年6月には名古屋市の男が狩猟可能区域外である市内の寺の境内や駐車場で「カラスの鳴き声がうるさいから」と農薬入りのエサをまき、カラス13羽を死なせたとして鳥獣保護法違反の疑いで逮捕された。また、令和3年3月には徳島県佐那河内村役場の勤務員が、捕獲を禁止されている野鳥4羽を剝製にして自宅で保管していたとして、略式起訴されている。

では、実際にどんな状況で、ハトなり野生動物を殺すと法に触れるのか。グラディアトル法律事務所の清水祐太郎弁護士に聞いた。

「鳥類、哺乳類に属する野生の生き物は『鳥獣』とされて鳥獣保護管理法で保護されています。この鳥獣保護管理法は、鳥獣を保護して生物の多様性の確保などをすることを通じて、自然環境の恵みを享受できる国民生活の確保などをすることを目的としています。ハトも野生の鳥類ということで生物の多様性を確保しようとする鳥獣保護管理法の例外ではありません。

そのため、法律に定める条件以外でわざと殺傷すると罪に問われることになります。今回はアクセルを踏み込んで急加速してひき殺したということですので、わざと殺傷したとして逮捕されたのだと思われます

現場となった西新宿1丁目の路上(撮影/集英社オンライン)
現場となった西新宿1丁目の路上(撮影/集英社オンライン)
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例えばこれがハトではなく猫や犬であったとしたら、どうなるのか。

「これが猫や犬であっても、完全に野生動物といえるときには、鳥獣保護管理法違反でハトと同じような理由で罪に問われることになります。ただし、猫や犬が人間の生活環境に近いところで生活している野良猫や野良犬の場合には、動物愛護管理法違反で罪に問われることになります」