〈アメリカ版ひろゆき!?〉「気候変動はホラ話だ!」米大統領選の注目株・ラマスワミ氏の矛盾だらけでも爆進できる”論破”力
2024年のアメリカ大統領選挙に向け、“トランプ流”の型破りな政策とひろゆき顔負けの論破力で注目度急上昇のビベック・ラマスワミ氏。共和党にすい星のごとく現れたこの無名の新人はいったい何者なのか?
8月の共和党討論会で大注目
「あなたの話を聞くたびに、自分がバカになる気がするわ」
今年9月。共和党大統領候補7人が参加した第二回目の討論会――。ニッキー・ヘイリー候補がある候補に向けて放った敵対的なひと言が全米の注目を集めた。批判を浴びせたのはヘイリー候補だけではない。他の5候補も同様だった。
この討論会で集中砲火を浴びたのは億万長者の起業家ビベック・ラマスワミ氏だ。インド系移民の弱冠38歳。共和党内でもまだ知名度は低い。そんな候補がライバルたちからなぜ、執拗な攻撃に晒されたのか?

ラマスワミ氏(写真/AFLO)
それは8月にあった第一回討論会で、並みいるベテラン政治家の面々が彼をはっきりと「脅威」と感じ、警戒心を高めていたからに他ならない。
ラマスワミ氏の8月の討論会での発言の一部を紹介しよう。
「おかしな名前の小男がどうして政治討論会のど真ん中にいるのか。疑問に答えよう。私は政治家ではなく、起業家だ。両親は40年前に移民してきた一文無しのインド移民。私は神を信じ、二人の息子を妻と育てながら会社を創立し、その売上は今や、数千億円規模にまでなった」
「だが私の息子の世代には、このアメリカン・ドリームは存在しない。なぜか。共和党の政治のプロたちが夢の実現から逃避しているからだ。我々はアメリカン・ドリームというビジョンから逃避してはならない。誰が車を壊した犯人にその車のカギを手渡すだろう。カギは次の新しい世代に渡すべきた。だからこそ私は今、ここにいる」
「移民」「一文無し」「努力」「神」「成功」などという、アメリカン・ドリームの鉄板的要素を取り入れ、1分足らずで自己紹介を仕上げる弁舌は実に見事だった。クリントンやオバマ、バイデンなど、民主党の大統領にはこの種の成功譚の名手が多いが、保守系の若手では珍しい。
ペンス元副大統領をも揶揄
その場にいる共和党の政治家すべてを敵に回す発言に、会場がざわめいたのは言うまでもない。その後もラマスワミ氏の舌鋒は止むことなく、次々とピンポイトで政敵を攻撃した。たとえば、ペンス前副大統領にはこんな揶揄めいた発言をしている。
「皆さん、そろそろ決め台詞も尽きたころなので、本音がわかる事態となりましたね。とくにペンスさん」と揶揄。
これに対し、ペンス氏も「今は、オン・ザ・ジョブ・トレーニングの余裕はない。新人は使い物にならない」と応酬を試みたのだが、ラマスワミ氏はすました表情で「大口献金者の操り人形をとるのか、真実を求める愛国者をとるのか」、「ゆるい改良主義者をとるのか、革命家をとるのか」と、さらにペンス批判を畳みかけたのだった。

ペンス副大統領
「革命」を売り文句にする候補らしく、ラマスワミ候補の政策は超過激だ。討論会でも「気候変動はホラ話」、「炭素税などは経済の足枷だ。事実、気候変動で犠牲になる人より、気候変動政策で犠牲になる人のほうが多い」と怪気炎を上げている。
こうした主張に「だれかに金でももらっているの?」(ヘイリー元国連大使)、「チャットGTPみたいな話し方にはもうウンザリだ!」(クリスティー元ニュージャージ州知事)と、他の候補が異論を述べても、まったく怯む気配もない。
それどころか、司会者から「ウクライナ支援は?」と聞かれると「プロ政治家が続々とゼレンスキー教皇に面会するためにキーウ詣をすることは侮辱的だ。その前に(山火事で被害にあった)マウイ島やシカゴの貧困街に行くべきだ」「ロシア制裁は中露を緊密にさせるだけだ。ウクライナのロシア占領地域はロシアにくれてやる」と、孤立主義者の片鱗を誇示。
さらには「ウクライナの国境が侵犯されたと騒ぐ前に、米国のメキシコ国境が侵犯されている問題に軍事力を使うべき」、「麻薬流入を阻止するため、メキシコの麻薬カルテルに対して米軍を動員させる」と介入主義者の面も見せるなど、まさに言いたい放題だ。
アメリカ版「論破王・ひろゆき」
また、この日の討論では言及がなかったが、ラマスワミ氏は東アジアに関しても「アメリカは孤立主義で臨むべき」との主張を展開する。たとえば、中台への対応については「私が大統領になれば、任期中に国内の半導体産業を育成し、台湾への依存を切る。そうすれば、中台の軍事衝突に巻き込まれなくてすむ」と発言している。
とはいえ、わずか4年の大統領任期内にファンドリーシェア世界一の台湾TSMC並みの半導体企業を育成できる保証など、どこにもない。また、アメリカの主敵はロシアでなく、中国だという極右的な自身の主張とも真っ向から矛盾するわけで、その整合性のない発言ぶりを聞くと、この人物は本当に秀才ぞろいのハーバード大、イエール大学院の修了者なのだろうかと、思わず首を傾げてしまう。
国内政策も矛盾だらけだ。その目玉はFBI(連邦捜査局)、IRS(日本の国税庁にあたる)、教育省などを軒並み廃止し、警察も州警察のみとすることなどで連邦政府職員の75%にあたる約100万人の人員を削減するというものだ。

経済金融政策も怪しい。FRB(米国の中央銀行)についてもその政策目標から「雇用の安定」を削除して縮小し、金本位制に戻すべきというのがラマスワミ氏の持論だ。全体のイメージとしては19世紀の牧歌的なアメリカに戻すような政策で、これはもう時代錯誤的と言ってもよい。
もっとも多くの人々から反発を受けているのが、投票年齢を25歳に引き上げるという投票権剥奪政策だ。これまでのように18歳から投票したければ、6か月の兵役に従事するか、(帰化移民が受ける)米国市民権テストで合格するか、救急隊員などの奉仕をするかなどの条件と課すというものだ。
若者に市民的価値観を身につけさせるためだというが、投票年齢の引き上げという歴史逆行的な主張への反発に加え、投票年齢の変更には憲法改正も必要とあって、その政策実現のハードルは高い。
言行不一致も目立つ。その典型が移民政策だ。アメリカには大卒程度の特殊技能労働者などに対するH-1Bビザ(査証)があるが、ラマスワミ氏はこれを廃止し、本当に能力のある人だけを選別する制度に変えると主張する。
H-1ビザは米企業に大人気のビザで8万人余りの枠に78万人が申請し、くじ引きが採用されるほどのニーズがあるにもかかわらず、この制度運用はいい加減で、技能不足の移民に大量のビザを発給していると断罪するのだ。
だが、雇用の安全弁的機能を果たしてきたH-1Bビザの恩恵を受けてきたのが、じつはラマスワミ氏が経営する製薬会社である。これまでに29回も同制度を常習的に活用し、移民を雇用してきたことが指摘されている(政治サイト”ポリティコ”、2023/9/16)。
このように、ラマスワミ氏の主張は矛盾だらけなのだが、そこは立板に水の弁論能力で爆進してしまうのが彼の武器であり、持ち味だ。その無敵ぶりはさしずめ、アメリカの「論破王・ひろゆき」といえば、日本の読者はピンと来るかもしれない。そんな彼がまさかの大統領候補にまつりあげられる可能性については、#2でお届けする。
文/小西克哉 写真/shutterstock
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