コロナ禍前まではただのパレードではなく、コンテスト形式の真剣勝負の場として、全国各地の約20団体ものサンバチームが集結していた「浅草サンバカーニバル」。
1部となるS1リーグと、2部となるS2リーグに分かれてパレードを行い、例年はダンスや衣装だけでなく全体の調和を評価基準に競い合い、モバイル投票により各種特別賞が、審査員により順位が決まる。そして、S2リーグの優勝チームとS1リーグの最下位チームが入れ替わって翌年新たな本番を迎えるシステムとなっていたが、今年は規模縮小ということで、パレードだけの開催となった。
参加チームは関東の大学生とそのOBやOG中心に構成された巨大サークルもあれば、東京、名古屋、鹿児島の3都市のサンバ好きの大人たちで構成されたものなどさまざまで、今回は両リーグ各8チームに加え、小学生のバンド隊も含めた総勢18団体、約3000人が浅草の雷門通りを練り歩いた。
〈写真多数〉ギャップがスゴすぎ! 4年ぶり開催の「浅草サンバカーニバル」をド派手衣装で盛り上げた女性ダンサーたちの仰天素顔。「夫は応援してくれないけど黙認はしています(笑)」
1981年から続く、夏の終わりの浅草の一大イベント「浅草サンバカーニバル」が9月17日に4年ぶりに開催された。パレードのコースは約半分に、アレゴリアと呼ばれる山車の走行を中止するなど縮小しての開催だったが、沿道には約30万人もの観客が集まった。パレードを盛り上げる女性ダンサーたちを直撃した。
衣装代に数十万円をかけるダンサーも

サンバカーニバルを彩るパシスタたち
サンバといえば、露出度の高い衣装と豪華な羽根を背負って踊る姿をイメージする人が多いかと思うが、このパレードの花形であるダンサーを「パシスタ」という。
そして、そのパシスタなどからさらに選ばれたトップダンサーが「ハイーニャ・ダ・バテリア」。これは「バテリア」と呼ばれる打楽器隊を先導してパレードを盛り上げる、チームの顔と呼べるポジションだ。
今回はパシスタを務める女性たちの素顔に迫った。
まず取り上げるのは2017年に誕生したばかりだという都内のサンバチーム「G.R.E.S.アカデミコス ダ グローリア」。このチームのパシスタであるエリさんは、ふだんは都内の企業で広報を担当する会社員。3カ国語を扱い、年に5回は海外出張もするというバリキャリだ。

和服姿のアカデミコス ダ グローリアのエリさん。
「サンバ歴は7年で、始めたきっかけは失恋です。カッコよくキレイになって相手を見返したいと思って始めました。講師はリオでも活躍されてるステキな日本人女性で、彼女のサンバへの熱い思いを吸収してるうちに、元彼のことなんかすっかり忘れました。サンバの躍動感と美しさにハマっていったんです」
純粋にサンバを楽しむだけならお金はかからないが、浅草サンバカーニバルのようなイベントに出ると「ファンタジア」と呼ばれる豪華な衣装を用意しなくてはならない。これが実費でなかなかの出費とのこと。

きらびやかな衣装の驚きのお値段とは。エリさんのファンタジア姿
「パシスタとして出るなら背負い羽根や髪飾りなどオーダーメイドで、最低でも数十万円ですから、海外旅行に2、3泊は行けるほどのかなりの金銭的な負担になります。ただ、お金のかかる趣味ですが、サンバから得られる達成感や仲間との一体感は他に代え難いんです」
ちなみに、露出度の高い衣装で踊ることについて周囲の反応は?
「友人や恋人、職場のみんなもこの活動を応援してくれてます。恋人は最初に見に来てくれたときは怖かったみたいで多少引いてましたが(笑)、以降も遠くで見守ってくれています(笑)」
娘とカーニバルに参加
続いて、1993年結成の「G.R.E.S. FESTANÇA」(フェスタンサ)のパレードに参加していた鈴木沙弥香さんとコリンさんに話を聞いた。

フェスタンサの鈴木沙弥香さん(左)とコリンさん
二児のママで現役保育士の沙弥香さんはこう話す。
「13年前、25歳のときの浅草サンバカーニバルで、当日だけ参加するフェスタンサの“当日隊”にエントリーして以来、サンバの虜です。何かを作ったり表現したり、発信するのが好きなんです。それに体を動かしてのストレス発散や体型維持のためにも続けてます。今回はカーニバルの3ヶ月前からダイエットを始めて、7キロも減量したんですよ!」
今回は娘さんとふたりでの参加だ。
「息子は夫と家にいますが、私と娘は朝から浅草です。実は結婚式でもフェスタンサのみんなが余興をしてくれたんですけど、夫がサンバを一緒に踊ってくれたのはその1度きり。今では応援はしてくれないけど、黙認してくれてます(笑)」

二児のママで現役保育士の沙弥香さん
コリンさんは普段、不動産とカフェ経営をしながらフリーダンサーをしている。
「浅草サンバカーニバルはもう20回近く参加してます。一時期はひとつのチームに所属していましたが、今はフリー。今年はフェスタンサさんからお声がかかり、参加しました。
コロナ前まではレストランでダンサー出演したり、アーティストのバックダンサーとしてステージに立ったこともあったんですよ。
気分的には何歳まででも羽根をつけて踊りたいですが、露出度も高いですしブラジル音楽の演奏者として、別の形で関わっていきたいです」
一方、パレードの参加者たちはこの浅草サンバカーニバルにどんな気持ちで挑んでいるのか。コリンさんが答える。

フリーのダンサーとしても活躍するコリンさん
「今年は縮小版だからコンテストはありませんが、みんな休日返上してダンスの練習をしたり、アレゴリアを手作りしたりして、浅草サンバカーニバルを目指します。私自身はフリーダンサーの身ではありますが、実際にチームに所属している方は、チームの昇格に本気で挑む方もいますし、色々な泣き笑いの人間ドラマもあると思います。
人によっては年がら年中、サンバで頭がいっぱいかもしれません。チーム内でのサンバ結婚もあれば離婚もあり、悲喜交々です(笑)」
52歳ダンサーも「目立ってナンボ」
地方から浅草サンバカーニバルに駆けつけたのは大阪府を中心に活動する「カンタ・ブラジル行進部」。このチームに所属するエリさんはサンバの魅力をこう語る。

カンタ・ブラジル行進部のエリさん。普段は滋賀県在住の会社員。「サンバカーニバルに参加していることは会社には隠してます」
「13年前に友達のお母さんが始めたサンバ教室で思いっきり踊り、非日常を味わう醍醐味を知りました。
特にこのような大規模なカーニバルではアドレナリンが噴き出し、日常を忘れて爆発できるところが最高に楽しいです」
しかし、カンタ・ブラジル行進部は今回をもって浅草出場は最後だという。
「メンバーの高齢化はもちろん、運営にもさまざまな工面が必要で、リーダーも大変だったと思います。
4年ぶりのカーニバルは本当に楽しかった。最後のいい思い出になりました! 今後は、関西でサンバを楽しみたいと思います」
小判をモチーフとした羽根を背負ってひと際目立っていたのは、東京神田が拠点の「アミーゴス カリエンテス」の伊藤磨古さん、52歳。

小判モチーフの羽根が目立っていた伊藤磨古さん
「サンバを始めたのは7年前とわりと最近ですが、もう3度も本場ブラジルのサンバを見に行くくらい、どハマりしてます。
今年のチームのテーマは“ええじゃないか”。これは目立ってナンボだと思い、小判を背負いました。これでもふだんはホテルの受付やってます(笑)」
ダンサーや打楽器隊あってのサンバチームだが、数百名ものメンバーを取り仕切る総代表「プレジデンチ」がいなければまとまらない。
S1リーグで大トリを務めたのは、81年から始まった浅草サンバカーニバルに初回から参加する「G.R.E.S.仲見世バルバロス」。この200名ものメンバーが在籍する由緒あるチームの3代目プレジデンチは、ふだんはIT企業のセールスエンジニアを務める44歳の鶴見太朗さん。

S1リーグの大トリを務めた仲見世バルバロス
「チームを任されたのは2022年のこと。サンバへの情熱はメンバー一丸ですが、昨今の苦労はなんといっても経費の工面。衣装や山車の作成に必要な物品をブラジルから輸入しますが、為替の変動も含め材料や運搬費が高騰し、財務面に重くのしかかってます。大人が本気で遊ぶためには会費の値上げの協力が不可欠ですが、理解あるメンバーにはいつも感謝しています」
4年ぶりに爆発した浅草サンバカーニバル。来年は縮小版ではなく、浅草の馬道通りから雷門通りまでを練り歩く、かつての“北半球最大級”のサンバカーニバルとして、さらに華やかに復活してほしい。
取材・文・撮影/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班
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