WBC中継で賛否⁉ 話題の“映り込みおじさん”の実は過酷な生活「仕事を辞めてプチホームレス生活」「貯金残高325円」もテレビ年間“出演”本数は50~70本で売れっ子タレント並み
一般人が映り込むことの多いニュース番組の中継レポート。もし、あなたがたまたま現場に居合わせたら、思い出作りにカメラに映り込もうとすることもあるだろう。しかし、その“テレビの映り込み”に人生を懸ける男がいる。増井孝充(たかみち)さん、55歳。今回はこの世にも珍妙な“映り込みおじさん”の生態に迫っていく。
WBC中継には7、8回の映り込みに成功
日本中が熱狂の渦に巻き込まれた第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。その結果を報じるニュース番組の中継映像に、大胆に何度も映り込む男の姿が! これには一部ネット民も騒然。
「増井孝充、55才。人生まだ始まったばかり! 今日はこんな僕を取材してくれてありがとうございます!」

増井孝充さん、55才。職業“映り込み師”
そう元気いっぱいに挨拶する増井孝充さんは人呼んで“映り込み師”。3月6日の侍ジャパン壮行試合終了後、「News23」(TBS系)に映り込んだことを皮切りに、10日の韓国戦後の「報道ステーション」、23日の決勝戦の翌日の「モーニングショー」(ともにテレビ朝日系)、選手が凱旋帰国した26日の「サンデージャポン」(TBS系)とWBC関連の中継に次々と“出演”。
何も知らない視聴者から「放送事故男」なんて不名誉なあだ名すらつけられた。増井さんにその話を向けると、興奮気味に本人なりのWBC奮戦記を振り返る。
「今回のWBCはかなり上手く映り込めました! キャスターさんの後ろにこそっと忍び込んだり、テレビ局のカメラがどこを映すのか予測して動けたので全部で7、8回は映り込めたんですよ。Twitterに『このオジサンは誰なんだ』ってカキコミも多くて、この活動を続けてきた中で一番手ごたえがありましたね(笑)」

WBC日本戦後の中継レポートにも出演(テレビ朝日「モーニングショー」より)
そう、彼が映り込みに執念を燃やし始めたのは今回のWBCからではない。
「初めて全国区のテレビに映り込めたのは、毎年1月5日に築地市場で行なわれる初競りで、大間のマグロを落札した、すしざんまいの(木村清)社長のインタビューです。もう5、6年前になりますね。
影に隠れてちょこっとしか映れなかったんですけど、夕方のニュースで取り上げられたときは、思わずガッツポーズしてしまいました。会ったこともない誰かが、僕のことを見てくれたかと思うと、背筋がゾクゾクするほど嬉しかったです」
人生を変えたのは市原隼人と戸田恵梨香?
これで味をしめた増井さんは、その後もノーベル文学賞発表のパブリックビューイングにハルキストに扮して村上春樹の落選に涙してみたり、大相撲で徳勝龍が初優勝したときには父親が歓喜する横で一緒に喜んだりと、まさに神出鬼没の映り込み。その映り込み回数は年間で50~70本だというから、これだけ見ればかなりの売れっ子タレントだ。
しかし、不必要に画面に映り込んでくる得体のしれない謎のおじさんに対して、「邪魔だ」「興味もないイベントにしゃしゃり出てくるな」といった批判的な意見も珍しくない。だが、そのくらいでは増井さんはへこたれない。
「大して気にしてません。ミーハーっぽいところはありますが、まったく興味のないイベントには行ってませんしね。その証拠に、台風中継や事件、事故現場には映り込める可能性が高くても行きません。ですからアンチの方々にもぜひご理解いただけるとうれしいですね」

4月8日放送の「オールスター感謝祭」(TBS系)にも映り込み成功
彼の言うとおり本当にアンチがいるのだとしたら、ある意味、人気者の証と言えるかもしれない。そもそも増井さんはなぜテレビの映り込みを始めたのか。
「小学生の頃から芸能人に漠然とした憧れがあって、ずっと『誰かに注目されたい』と思いながら生きてきました。そんな気持ちを抑えながら、地元、三重の工場に就職して普通に働いてたんですが、東日本大震災による半導体不足で工場が停止して1か月まるまる特別休暇をもらったんです。
その時にやることがなかったから『DOG×POLICE 純白の絆』という映画のエキストラに応募したんです。その撮影現場で見た市原隼人さんや戸田恵梨香さんのあまりのオーラに、僕の“目立ちたい欲”が再燃してしまいまして……(苦笑)」
市原隼人も戸田恵梨香も、まさか1人のおじさんの人生を変えて(狂わせて)しまったなどとは夢にも思っていないだろうが、ともあれ、ここから増井さんのエキストラ活動、そして映り込み活動は加速していく。
「ハタから見たら痛いオッサンだってわかってます」
しかし、ニュースの中継映像の舞台はその多くが都内。三重に暮らす増井さんには大きなハンデだ。
「だから映り込みのために長年勤めていた三重の会社を辞めて、三重で1か月派遣作業員をしたら、次の1か月は東京で映り込み活動という二重生活を始めたんです。でも、都内活動中の滞在費や宿泊代、食事代はひと月おきの派遣作業の給料ではまかなえず、みるみる貯金はなくなっていきました。お金を下ろそうとして通帳の預金残高が325円になったときは『ああ、終わったな……』とガックリきました」
その後は単発のバイトを増やし、都内で活動する際は川崎駅近辺のトランクルームに荷物を置いて、野宿をする生活に。まだ三重に家があるとはいえ、映り込み生活のために“プチホームレス”となった。

月額7000円で川崎駅付近にあるトランクルームのロッカーを借りて、荷物をここに保管している
増井さんは母親を18歳の頃に亡くし、5つ下の妹は20年以上前に嫁いだきり会っていない。父は息子の奇行には無関心。恋人は10年以上おらず、とうに結婚は諦めた。お金もない。そんな身の上でもWBCで侍ジャパンが勝利すれば、我がことのように喜ぶ。
実は増井さんは、どこまでもポジティブな男なのではないだろうか。
「ハタから見たら痛いオッサンだってわかっているんです。それでも、『テレビに映ったのを見たよ』と地元の友達から連絡がくるのは嬉しいし、最近は街で声をかけられることも増えてきまして。『あれ? もしかしてテレビによく映り込んでる人ですか?』なんて言われると、この活動を続けてきてよかったなって。貯金もなくなって野宿するハメになりましたけど、一切後悔はありません!」
ちなみに、そんなにもお金がないのにWBCの観戦チケットや、壮行試合の行われた大阪や名古屋への交通費などはどのように工面したのか。
「WBCに向けて貯金はしてきましたが、プロ野球の試合と違ってチケットが高いので厳しかったですよ。ただ、遠征先でも野宿したので滞在費はかかってません。交通費ですか? 青春18きっぷを使って鈍行で行ったので激安でした(笑)」
彼にとっては、今がまさに青春の1ページ……なのか?
テレビに映り込むため、中継現場を求めて、今日も増井さんはさまよう。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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