学童保育には市町村が管理し、税金の一部補助を受ける「放課後児童クラブ」と、補助を受けない「民間学童」がある。
ともに学校の宿題やおやつの飲食、昼寝や支援員を交えた遊びなど、家庭生活の延長にある活動ができる。また、平日だけでなく、土曜や夏休みなどの学校の長期休業期間にも開いており、学童保育が子どもを預かる時間は1年間で1600時間を超える。
「放課後児童クラブ」の多くは月額4000円~1万円と比較的利用料が安く、無料とする自治体もある。開所時間は時期にもよるが、19時までとするところが多い。
一方、補助を受けない「民間学童」は月額3万~7万円程度と高いが、遅いところは21時頃まで開いている場所もある。
この違いはまるで、「認可保育所」と「認可外保育所」のようだ。
このところ「民間学童」からも補助を求める動きが出ており、岸田文雄首相の「異次元の子育て対策」にも「学童を含めた保育支援の拡充」という文言があった。
また、2月13日、岸田首相は小学校入学後、子どもの預け先を確保できずに保護者が仕事を続けにくくなる「小1の壁」問題にも言及。解消に向けて支援策を検討する意思を示した。
岸田首相の“異次元の子育て対策”はどこへ…「教室2部屋分の広さに120人の児童」「支援員の半分は年収150万円以下」児童も保護者も支援員も嘆く、学童保育の現状
小学生の子どもを安心して預けられる場所といえば学童保育。しかし、「♯学童落ちた」がSNSでトレンドとなっている。2016年に待機児童問題の一環として「保育園落ちた 日本死ね!!!」と綴られたはてな匿名ダイアリーの記事が話題になってから7年、新たな社会問題の構造とは。
学童保育の整備は優先順位が低いという現状

学童保育は、「保育」といっても保育所など児童福祉施設とは違い、小学生を預かってはいるものの、学校や学習塾とも異なる。
実は学童保育の運営ルールや職員の待遇の枠組みは、各方面にわたって整理が不十分なままだ。職員の資格、定員などが決まったのは2010年代以降のこと。
保育所や小学校、中学校であれば、市町村に設置義務があることが法律で決められており、定員をオーバーした状態を放置できない。
もちろん、「放課後児童クラブ」の整備も市町村に義務があることに変わりはない。
しかし、小学校を増設したからと言ってすぐに放課後児童クラブを整備できるわけではない。もちろん法律で定められているため、市町村はこの状況を放置することはできないが、保育所や小、中学校の増設に比べると優先度が高くないため、対応が後手に回ってしまう。
こういったことが理由で、キャパシティを超える学童保育が続出、「♯学童落ちた」と嘆く保護者が後を絶たないわけだ。
教室2部屋分の広さに120人以上も集められ…
学校近隣の「放課後児童クラブ」がすべて定員をオーバーするような状態になると、「学童の待機児童」が増えることになる。
それを避けるために定員オーバーでも受け入れるか、それともそのまま「学童の待機児童」を出すかは市町村の判断次第だ。
「うちの地元の学童の選考は保育園と同じで点数制で決まるため、子どもを学童に入れられず近所の祖父母が交代で面倒を見てくれている。私は元々看護師でしたが、本格的な仕事はとてもじゃないけどできない。周囲のママ友もパートしかできていません」(静岡県在住・小学2先生の保護者)
また、学童保育の支援員側も辛い状況だ。
以下のイラストを見てもらいたい。

利用児童にとっても支援員にとっても劣悪な環境になってしまっているのがよくわかる学童保育のイメージイラスト
これは関東地方のとある放課後児童クラブの2022年の状況を職員が描いたものだ。
定員の2倍を超える児童を受け入れている状況で、支援員の手が回らず「支援員と一言も話せない子どもがいたほど」だったという。この街では転入者の人口が多く、小学校は増設されたが、「放課後児童クラブ」の開設は間に合わなかった。
この「放課後児童クラブ」はすでに自治体が対応し、現在は定員超過が解消されているが、都心では同様のケースが複数あり、保護者からは不安の声があがっている。
「小学校の教室2部屋分の広さに120人以上が集められていて、まるでタコ部屋。支援員のなかにはパートの人も多い。上級生からいじめられても支援員の目が行き届かず、子どもが学童に行くのを嫌がっている」(豊島区在住・小学1年生の保護者)
「保育園だと21時まで延長保育が認められていたけど、放課後児童クラブは19時まで。共働きで通勤時間から逆算すると、19時までに迎えに行くには残業なんてできない。
21時まで預かってくれる塾も併用する民間学童が近くにあるのでそちらも利用してますが、月8~10万円もかかる。なんのために働いているのかわからない……」(豊島区在住・新小学1年生の保護者)
支援員歴1年の20代の職員が責任者になることも
全国学童保育連絡協議会によると、放課後児童クラブの職員の48.43%が年収150万円以下であり、経験年数3年未満の職員が全体の44.8%だ。学校の長期休暇の時期は一日中忙しく、その他の平日は午後から夕方が労働時間になるという不規則な就労状況下で働いている。
国は人件費の拡充のために複数の制度を準備しているが、市町村によってはそれらの制度が全く活用されていない地域も少なくない。拡充のためには市町村の予算を投じなければならないからだ。
十分な給与が支給されない現状が放置されているのだから、当然、離職率は高い。大田区在住の利用者からはこんな声もあがっていた
「利用児童が毎日100名以上いて、支援員は社員とバイトで10人近くいるが、社員もバイトもコロコロかわる。だから子どもの名前も覚えていないし、子どもも支援員の名前を覚えていない。
責任者は支援員歴1年の20代の方で、経験も浅い。子ども同士のトラブルでケガが起きることもしょっちゅうで不安だが、私も仕事があるので預けるしかない」(大田区在住・小学2年生保護者)

Twitterには学童に落ちたことを報告する保護者が多数みられる
放課後児童クラブの全国登録児童数は2022年時点で134万人以上。放課後児童クラブも、そこで働く支援員も数は増えているが、入りたくても入れない「待機児童」が多いのは保育所と同様だ。
2022年には1万5000人以上の「学童の待機児童」がいるが、そもそも「放課後児童クラブ」がない地域もある。そこでは待機児童をカウントすらできず、正確な数は不明といえるだろう。
ニーズに追いつけない現状を放置して「定員オーバーの学童」に預けるか、「学童の待機児童」になるかは究極の二者択一。たとえ預けられても、職員の処遇や就労の不安定さについても対策しないままでは、保護者の心配が尽きることはない。
※「集英社オンライン」では、学童保育や待機児童についての取材を進めています。情報をお持ちの方は下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。
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取材・文/大川えみる
集英社オンライン編集部ニュース班
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