国民に手間をかけさせ「マイナ保険証」を強制する岸田政権…メリットが乏しいのに「2万マイナポイント」だけで普及をはかる愚策
現在、申請中も含めると、日本国民は9000万枚を超えるマイナンバーカードを持っていると言われている。しかし、カードを持つことでのメリットはあまり感じることがない…政府は「こんなに便利!」と強調していたはずだが、いったいどうなっているのか。『マイナ保険証の罠』 (文春新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
『マイナ保険証の罠』#3
マイナンバーカードのメリットとデメリット
そもそもマイナンバーカードとは、どんなもので、どんなメリットがあるのか? そう聞かれると、自信をもって答えられる人は多くないでしょう。
本来ならば、国は、マイナンバーカードが本人証明のためのカードであること、マイナポータルに個人情報を(本人の同意の上で)集めて、民間も含めて、使用する目的のものであることを丁寧に説明すべきでした。
後述するように、「自分は同意した覚えはない」という情報でも、「同意しない」とわざわざ言わなければ、同意したものとみなされ、いつのまにかマイナポータルで見られるようになっている、といったケースもあります。
こう書くと、「カードをつくる時に、そんな説明はされなかった」と言う人がほとんどでしょう。でも、丁寧に「あなたの個人情報をすべてマイナポータルで見られるようにしてあるので、もし、情報が漏れても、自己責任でお願いします」などと言ったら、多くの人がノーと言うに決まっています。
そこで、政府は、そんなことは一言も言わずに、「マイナンバーカードを持っていると、こんなに便利です」という説明を繰り返してきたのです。
しかし、マイナンバーカードはそんなに便利なのか?
いまでは9000万枚を超えるほど普及しているはずですが、「やっぱり便利で、マイナンバーカードなしにはやっていけない」という声は聞いたことがありません。マイナンバーカードなどなくても、ほとんどの人は、それほど生活に不便は感じていないというのが、私の実感です。

国は「こんなに便利!」と言うけれど……
国も、便利でなければカードが普及しないということは、重々承知していたはずです。ですから、パンフレットなどでは「こんなに便利!」と強調した宣伝をしています。
ただ、こんなパンフレット(図12)を見せられても、首をかしげる人が多いのではないでしょうか。

図12。『マイナ保険証の罠』より
「公金受取口座の登録で給付金等の受取がカンタン!」と言われても、マイナンバーカードを使ってコロナの時の10万円の給付金をオンラインで申請した人は、「便利」どころか、紙やプラスチックの保険証で郵送申請した人よりも給付が遅くなったり、オンラインでの受け付けができない自治体が出てきたりで、ひどい目に遭いました。
コロナのワクチン接種証明も、証明書を出せと言われるケースが少なかっただけでなく、民間で操作が簡単なワクチン証明書がどんどん出てきたので、ことさらにマイナンバーカードで電子証明を行う必要性が感じられませんでした。
確定申告も、年に1回のことだし、サラリーマンだと医療費控除を申請するくらいで、マイナンバーさえあれば、マイナンバーカードをわざわざつくらなくても、国税庁のページに入って、簡単に確定申告ができます。
これでは、カードがなかなか普及しなかったのもうなずけます。サービスを受けるはずの国民から見て、特に便利に感じられず、魅力に乏しいのです。
結局2万円のマイナポイントが普及の決め手に
現在、申請中も含めると、日本国民は、9000万枚を超えるマイナンバーカードを持っています。マイナンバーカードがここまで普及した最大の理由は、間違いなく、最高で2万円ぶんのポイントがもらえる「マイナポイント」にほかなりません。
これは逆に言うと、2万円のプレゼントをつけないと、カードをつくる人が増えなかったことになります。もし、「マイナンバーカード」が本当に便利なカードだったら、2万円ぶんのポイントなどつけなくても、みんな持とうとするはずです。
ちなみに、今まで政府は、「マイナンバーカード」の普及のためにトータルで約3兆円の税金を使っています。
これは、2021年3月の衆院内閣委員会で、当時首相だった菅義偉氏が明らかにした数字ですが、過去9年間で8800億円の税金が使われていました。さらに、その後普及のためのポイントのキャンペーンにつぎ込まれた予算は累計で2兆円以上になります。
普及のために約3兆円もの税金が使われたということは、国民ひとり当たり約3万円の税金が使われたということ。2万円ぶんのポイントをもらっても、本当は、そんなに喜べる話ではないはずです。

国民に不便を強いて「マイナ保険証」を強制
こうして2万円のプレゼントつきで、ようやく国民に持たせることができたマイナンバーカードですが、使い道がなければ、意味がありません。
そこで政府が目をつけたのが、国民の誰もが加入している健康保険制度でした。
みんなが利用している健康保険証を廃止して、「マイナ保険証」を義務化することで、マイナンバーカードを事実上の「強制」に持ち込もうとしたのです。
健康保険証の廃止が発表されるまで、マイナ保険証に切り替えていた人は20%程度でした。第四章で詳しく述べるように、医療機関などでも、導入のハードルが高いこともあって、普及が進んでいなかったのです。
いわば「マイナ保険証を持っていると便利だから」ではなく、「マイナ保険証を持っていないと、医療機関にかかれなくなる」と、国民に不便を強いることでマイナ保険証を押し付けたわけです。
文/荻原博子 写真/shutterstock
『マイナ保険証の罠』 (文春新書)
荻原 博子 (著)

2023/8/18
¥935
224ページ
978-4166614226
マイナンバーカードに、いったい何が起きているのか?
7000件以上の誤登録、医療現場でのシステム障害など、トラブル続きの「マイナ保険証」。さらに2024年秋には、現行の健康保険証は使えなくなる――。見切り発車、その場しのぎの続く政府の対応への不信感もつのる。このままの状態でマイナンバーカードの「拡充」が進めば、情報流出のリスク、情報弱者切り捨てなどの問題も増大するだろう。政府を挙げて暴走するDX政策の罠を、利用者の目線でわかりやすく解き明かす。
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