人間が食事をすると、栄養素の一部は糖になって腸から吸収されます。糖は血液中を流れ、臓器を巡ります。血液中の糖をエネルギーに変えるためには、これを細胞に取り込む必要があります。そのときに活躍するのが、すい臓から分泌されるインスリンです。
インスリンの作用によって血液中のブドウ糖度(血糖値)が正常に保てるようになっていますが、このインスリンの働きが低下したり、分泌量が減ったり、血液中のブドウ糖が増え、高血糖の状態になるのが糖尿病です。
また、糖尿病にはすい臓がインスリンを作ることができない1型と、インスリン分泌不全、作られたインスリンが十分作用しない2型の2つのタイプがあります。
2型糖尿病はもっとも一般的な糖尿病で、生活習慣の悪化や遺伝的要素が要因であることが多いです。
糖尿病はサイレントキラー(静かな殺し屋)と呼ばれています。最初のうちは症状はないのですが、気がつかないうちに体を蝕み、最終的には命に関わる体の状態になってしまうからです。
中でも糖尿病の患者に多いのが、合併症です。
失明に至ることもある糖尿病網膜症、腎臓機能が失われて透析治療などが必要になる糖尿病腎症、手足のしびれや場合によって足を切断することもある糖尿病神経障害の「三大合併症」などが挙げられます。
また、動脈硬化の原因となって、心臓病や脳卒中を引き起こす場合や敗血症になったときの重症化リスクも高くなります。
糖尿病は40歳を過ぎてから発症することがほとんどですが、食生活の乱れ、喫煙、睡眠・運動不足などの生活習慣の乱れによって、若い世代でも発症する場合はあります。
そんなことにならないためにも大事なのは、初期症状を見逃さないことです。
糖尿病はコロナ重症化や敗血症の重症化リスクの原因に。「体重の減少」「喉の渇き」「目のかすみ」……絶対見逃したくない5つの初期症状
糖尿病といえば、中高年で太っている人の病気と思っている人は多いのでは? 糖尿病は若い世代でも発症する病気で、初期段階では自覚症状がないため、いつのまにか進行していることも。初期症状を見逃さないためにも、代表的な5つの症状について、ウチカラクリニック代表の森勇磨医師に解説いただいた。
サイレントキラーと呼ばれる糖尿病
体重の減少、喉の渇きに気をつける
では一つずつ、初期症状を解説していきます。
初期症状1:体重の減少
糖尿病は太っている人や甘いものが好きな人がなるから体重が増えるというイメージをもたれているかもしれませんが、実は逆のことも起こります。
前述したとおり、体はインスリンの作用のおかげで糖をエネルギーにして細胞に取り込むことができます。
糖尿病になると、インスリンの働きが低下し、血液中の糖が増え、血糖値が上昇し、糖をエネルギーとして利用できなくなります。
そうなってくると、エネルギー不足を補うため、体の中では筋肉や脂肪を分解し始め、これが体重の減少に繋がるのです。
食べる量は変わらないのに、体重が減っている人は要注意です。
初期症状2:喉の渇き
糖尿病の人は血液に糖が多い状態です。
これを放っておくと、いわゆるドロドロ血液の状態が続き、脳梗塞や心筋梗塞が起きてしまうので、それを防ぐために脳は水を飲めという指令を出します。
この指令を喉の渇きとして感じるのです。
また糖尿病は、その名前の通り、尿に糖分が漏れる病気です
血液の中の糖の量が多くなってしまうので、尿として排出される糖も多くなってしまいます。
糖は水を引き寄せる力があるので、その分、尿の量が増えてしまい、体の水分が失われることで余計、喉が渇くという理由もあります。
そんなとき、スポーツドリンクやソフトドリンクを飲みまくると、とんでもないことになります。
喉が渇いたとき、清涼飲料水を飲んでも全然喉の渇きが解消されなかった経験ってありませんか?
清涼飲料水にはかなりの糖分が含まれていますので、血糖値は下がらないまま、喉の渇きが治まらないため、またドリンクを飲み続けるという悪循環になります。この負のスパイラルのせいで血糖値がどんどん高くなってしまい、命に関わる状態になってしまうのです。
この状態をペットボトル症候群と呼びます。
特に若い人が陥りやすく、食事代わりに甘い飲料を飲むと血糖値が急激に上がるので要注意です。
清涼飲料水の飲みすぎで救急搬送される方も少なくありませんので、常に喉の乾き、尿の出すぎには注意してください。

目のかすみ、風邪を引きやすい、手足のしびれは糖尿病のサイン
初期症状3:風邪を引きやすくなる
血糖値が高くなると、体の中に侵入してくる細菌から守ってくれる白血球のパワーが落ちてしまいます。
このため免疫機能が落ちてしまい、風邪にかかりやすくなってしまうのです。
特に血糖値のコントロールが悪い人ほど免疫機能が落ちると言われています。
また、皮膚や尿にも、バイ菌が入りやすくなりますし、何より新型コロナウイルス感染症を罹ってしまうと重症化してしまう可能性も上がるので、注意が必要です。
最近風邪をひく頻度が多い、傷の治りがやたらと遅い場合は、糖尿病の可能性があるので、血液検査で確認するようにしましょう。
初期症状4:目のかすみ
糖尿病では血液中の糖が多く存在している状態になるため、この糖が血管の中の壁を傷つけ、血管がボロボロになってしまいます。
これがいわゆる動脈硬化や血管の詰まりの原因になります。
そして細い血管から先に障害が起きてきます。
目の血管は特に細い血管なので、糖尿病の影響をとても受けやすい部分です。
目の血管が詰まることで、視界の中に煙のようなものや蚊のようなものが飛んでいるように見えることがあります。
これを飛蚊症(ひぶんしょう)と呼びます。
糖尿病による目の病気では最悪の場合、失明してしまうこともあります。
最近、目がかすむ、蚊のようなものが飛んでいるように見えるときは、早めに受診しましょう。
初期症状5:手足のしびれ
実はこのしびれの原因は現代の医学ではまだ解明されていません。ソルビトールという物質が神経にたまることが原因という説がありますが、真相はまだわかっていません。
糖尿病によるしびれは部位としては手足の先が多いです。
例えば、足に木の枝が刺さっても痛みを感じないので、放っておいたらそこからバイ菌が入って、足を切断することになったという話も珍しくありません。
手の指先や足の裏がピリピリする、何か感覚がおかしいと思ったら要注意です。
もしかしたら糖尿病かも……と心配な人は、健康診断のヘモグロビンA1c(HbA1c)の値をチェックしましょう。
HbA1cの正常範囲は~5.6%、糖尿病予備軍は5.7~6.4%です。
自分の健康チェックのためにも年に1度は健康診断を受けて、糖尿病の兆しがないか確認しましょう。

取材/百田なつき
40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74(ダイヤモンド社)
森 勇磨

2021年9月29日
1,650円(税込)
328ページ
4478113459
人生100年時代を生き抜く「最強の基礎教養」。血液・尿検査の絶対見逃してはいけないポイントから、エビデンスのあるがんの予防・早期発見法、健康寿命を1日でも延ばす食事術と生活習慣、太く長く生きるためのメンタルケアの方法、そして、大病になったときの再発予防・リハビリまで、正しい健康知識の超集大成!
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