RTA(リアルタイムアタック)とは、ゲームのスタートからクリアまでの実時間を競う、タイムアタックの一種である。通常のタイムアタックがゲーム内時間を計測するのに対し、RTAでは実際に経過した時間が記録される。ミスによるリセットなどはタイムロス。最速をめざすにはクリアまでノーミスであることが要求される、一発勝負の世界だ。

10年やりこんで知ったRTAの怖さ…連続48時間プレイ、100回以上クリアしたゲームも
RTA(リアルタイムアタック)の国内最大級のオフラインイベント、RTA in Japan Summer 2022が8月に開催。走者(プレイヤー)の一人、braster氏は8時間にも及ぶRTAを完遂した。「どうしても発生してしまう不運を楽しめるようになったら、RTAも一生楽しめる」と語るbraster氏が10年かけて見出したRTA観、そしてゲーム観とは。
RTAの達人たち#4 「テイルズ」シリーズ
公式が一周する間に5回クリアした
――RTA in Japan Summer 2022では8時間にもわたるRTA(リアルタイムアタック/ゲームクリアまでの実時間を競う遊び方)を見事、完遂されていました。イベントを通しても最長クラスのRTAだったかと思いますが、普段から長時間のRTAを行われているのですか?
私は今回のイベントでもプレイした「テイルズ オブ シンフォニア(以下、シンフォニア)」を中心に、テイルズシリーズのRTAなどを行っています。
RPG(ロールプレイングゲーム)作品なのでプレイも長くなってしまいがちなのですが、それでもシリーズの他作品のRTAは4〜5時間で終わるので、シンフォニアはとくに長いほうですね。

©Bandai Namco Entertainment Inc. ©藤島康介
ただ、好きな作品なので長時間のプレイ時間は全然苦にはなりません。過去には48時間RTAをやり続けたこともあります。
――丸2日間も……!
もちろん途中で仮眠は取りましたが、起きている間はずっとプレイしていました。達成したのは8年前のことです。当時はまだ20代で体力も有り余っていたからこそできたのだろうなと、今では思います。
そもそものきっかけは公式が開催した、動画配信者が集まってシンフォニアを48時間連続でプレイするイベントでした。RTAではなく、参加者が代わる代わるリレー形式でプレイして48時間でクリアをめざすという企画です。
――それに参加を?
残念ながら私は呼ばれなかったので、自主的に48時間ゲームしました。
当時からシンフォニアのRTAやプレイ動画の配信をしていたので、公式イベントと併走してRTAを行ったら面白そうだなと思ったんです。
結果、公式がエンディングを迎えるまでに1人で5周もしてしまいました。イベント終盤では公式よりも私の配信のほうに視聴者が集まってしまっていて、申し訳ない気持ちになったのを覚えています。
運が悪いときにこそ試される作品愛
――RTAとの出会いは何だったのでしょうか
10年前、配信中に視聴者から「RTAに興味はありませんか?」というコメントを頂いたのがきっかけです。
それまではRTAという言葉さえ知らなかったのですが、どうやらゲームを早くクリアする遊び方らしいぞ、と。そこで試しにシンフォニアのRTA動画を見て、衝撃を受けました。
それまでの私にとって、ゲームは完全クリアをめざすものだったんです。ゲームは用意されている要素をすべて堪能してこそだと。
例えばRPGなら、ラスボスを倒すまでのメインストーリーだけでなく、サブイベントやアイテム回収といった収集要素まで100%やりこむ。それらのイベントは、プレイヤーに楽しんでほしいという思いで開発者が用意してくれたわけです。ならば、隅々まで遊び尽くして当然。むしろ、取り逃しがあってはゲームが可哀想とさえ思っていました。
しかし、RTAではイベントも飛ばすしアイテム回収のための寄り道もしない。ただ純粋に最速クリアをめざす。今までの自分と正反対の遊び方に驚き、挑戦してみたくなったんです。

右がbrasterさん @RTA in Japan Summer 2022
――それから10年RTAを続けられているというわけですね。とはいえ、それまでの完全クリアをめざすbrasterさんのプレイスタイルと効率的にエンディングをめざすRTAとでは、相容れない部分もあったのではないでしょうか?
そうとも言い切れません。
ゲームによっては敵の取る行動や落とすアイテムなどが何パターンも設定されている場合があります。どれが出るかは運次第なところもあるのですが、どんな状況になっても対応できるように何十回、何百回と練習を重ねるわけです。
しかし、どれだけ練習を重ねようとも、敵が見たことのない攻撃をしてきたり、必須アイテムが予定の場所で拾えなかったりすることがあります。良い記録が出ているときなどに限ってありえない不運を引いてしまうのがRTAの怖いところなのですが、そんなときにこそ作品愛が試されるのではないかと、私は思うんです。
例えば、運が悪くてお金が足りなくなってしまった場合でも、周辺のサブイベントや配置アイテムを知り尽くしていれば、タイムロスを最小限に抑えて金策が可能です。
運が悪いとき、短いRTAであれば計測をやり直せばいいのですが、長時間のRTAでは走りきることも大切です。ひたすら遊んできた経験があるから、不測の事態に陥っても諦めずにリカバリーができるのです。
――データを詰め込むためには、途方もない時間が必要かと思います
引き出しは多いに越したことはありませんから。シンフォニアは少なくとも100周以上はクリアしていますね。遊びすぎて、ディスクを4枚もダメにしてしまいました。
今でも、はじめての作品はひととおり遊びつくしてからRTAに取り組みます。攻略本も全部買うし、載っている情報は自分でも実際に試します。知らなかったことが見つかると、一層作品に近づけたようでうれしい気持ちになります。
不運を引いてしまったときも「こんなパターンもあるんだ!」と気持ちを切り替える。一喜一憂を楽しめることが、一生楽しくRTAを続けていくコツですね。
「多様性があるから、今でも新しい発見がある」
――brasterさんの名前がついたRTAのテクニックがあると伺いました
「ブラ走法」ですね。自分で名付けたわけではないのですが、ありがたいことに広まってしまって。
――どのような技なのですか?
「ドラゴンクエスト8」のRTAで用いられるテクニックで、簡単に説明すると斜めに走ることで通常よりも速く走れるというものです。斜め走りをするためにはカメラを微調整する必要がありますが、1.4倍くらい移動速度が上がります。
もともとシンフォニアで使っていたテクニックなのですが、ふと、別作品にも応用できるのではないかと思ったんです。そこで、ドラゴンクエスト8のRTAで試したところ、実際に速かった。
大幅な時間短縮だったのもあって話題となり、気づいたら自分の名前がついていました。
――いろいろな作品に触れていたからこそ見つけられたというわけですね
もちろん、一つの作品を、それこそプログラミングのレベルまで研究する方もいるので、ブラ走法もいつかは発見されていたでしょう。ただ、さまざまな人がRTAを行っていることも、新発見が絶えない理由だと思います。
RTAでは「なぜこんな簡単なことに気がつかなかったのか」というケースが結構あるんです。ブラ走法も蓋を開けてみれば斜めに走るという単純なテクニックですが、別のゲームの考え方を取り入れることがきっかけで発見に至りました。
RTA業界は多様性の塊だと思っています。楽しく走りたい人や、人類の限界までタイムを詰めたいという人。RTA動画で再生数を伸ばしたいという人もいます。いろいろな視点に立つ人が集まるから、新しい着眼点も見つかる。
だからこそ、もっと多くの人にRTAを始めてみてほしいと思います。すでに取り組んでいる方々にも、新しく始める人の個性や気持ちを大事にしてあげてほしい。そうすれば、RTAはみんな楽しく、ずっと続いていけるはずです。とはいえ、シンフォニアのRTAが一番好きという気持ちは誰にも負けるつもりはありません。
取材・文/笠木渉太
新着記事
自衛隊が抱える病いをえぐり出した…防衛大現役教授による実名告発を軍事史研究者・大木毅が読む。「防大と諸幹部学校の現状改善は急務だが、自衛隊の存在意義と規範の確定がなければ、問題の根絶は期待できない」
防衛大論考――私はこう読んだ#2
世界一リッチな女性警察官・麗子の誕生の秘密
「わかってる! 今だけだから! フィリピンにお金送るのも!」毎月20万以上を祖国に送金するフィリピンパブ嬢と結婚して痛感する「出稼ぎに頼る国家体質」
『フィリピンパブ嬢の経済学』#1
「働かなくても暮らせるくらいで稼いだのに、全部家族が使ってしまった」祖国への送金を誇りに思っていたフィリピンパブ嬢が直面した家族崩壊
『フィリピンパブ嬢の経済学』#2
