これは私が高校生の頃に観た作品で、映画という芸術に本当の意味でハマった名作中の名作です。俳優はいいし、ストーリーももちろん面白い。カメラワークも何もかも、すべての要素が完璧で、“映画芸術はこういうものだ”と体現している。映画のよさを一身に集めている作品だと思います。

観て損は絶対させない! 戸田奈津子さんが愛する20世紀の映画10本
19世紀の終わりに発明され、20世紀に花開いた映画とその文化。戸田奈津子さんの胸に燦然と輝くのは、20世紀に制作された映画たちだといいます。映画は決して技術を競うものではなく、「何を伝えているのか、それによって自分の心がどう動いたか」が大事だと語る戸田さん。映画を観ることで知らない世界に旅ができる珠玉の10本を挙げていただきました。『アラビアのロレンス』や『カサブランカ』『ローマの休日』などの名高い傑作はもちろん素晴らしいと認めたうえで、一味違う、戸田さんのお好みをご紹介します(制作年度順に紹介)。
ロードショー復刊記念 戸田奈津子さんインタビュー②
観て損は絶対させない! 戸田奈津子さんが愛する20世紀の映画10本
『第三の男』(1949) The Third Man 上映時間:1時間44分/イギリス
監督:キャロル・リード
出演:ジョゼフ・コットン、オーソン・ウェルズ、アリダ・ヴァリ

©Capital Pictures/amanaimages
『静かなる男』(1952) The Quiet Man 上映時間:2時間9分/アメリカ
監督:ジョン・フォード
出演:ジョン・ウェイン、モーリン・オハラ、バリー・フィッツジェラルド
西部劇の名監督として有名なジョン・フォードですが、彼は故郷のアイルランドを舞台にした映画も作ってきた人。これはその中の1本になります。生まれ故郷であるアイルランドの田舎に帰ってきたアイリッシュアメリカ人青年をジョン・ウェインが演じているのですが、映し出される景色も本当に素敵なんです。これも映画の中の映画って感じかな。この映画をきっかけに私、アイルランドまで実際に旅行に行っちゃいましたから。『第三の男』と『静かなる男』は、劇場で何遍観たかわからないくらい好きな映画です。

©Capital Pictures/amanaimages
『わが青春のマリアンヌ』(1955) Marianne de Ma Jeunesse 上映時間:1時間45分/フランス・ドイツ
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
出演:マリアンヌ・ホルト、ピエール・ヴァネック
ドイツのハイリゲンシュタットという深い森の中にある寄宿学校の物語ですが、非常に素敵なお話なんです。ある少年が古い館で美しくミステリアスな少女に出会うのですが……あまり深く内容を説明するわけにはいかない映画です(笑)。とっても不思議でロマンティックなので、機会があればぜひ。
『大いなる西部』(1958) The Big Country 上映時間:2時間46分/アメリカ
監督:ウィリアム・ワイラー
出演:グレゴリー・ペック、チャールトン・ヘストン、ジーン・シモンズ
西部劇は世の中にいっぱいありますが、その中でも私はこの作品がとっても好き。ウィリアム・ワイラーという巨匠が作った大西部劇で、長いお話ですけどオールスターキャストで音楽もとてもいいんです。西部の雄大さをバックにグレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンが対決するのですが、ただバンバン撃ち合うんじゃなく情緒があるんです。そこがいいんですよね。

Everett Collection/アフロ
『ウエスト・サイド物語』(1961) West Side Story 上映時間:2時間33分/アメリカ
監督:ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス
出演:ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー、ジョージ・チャキリス、リタ・モレノ
スティーブン・スピルバーグ監督のリメイク作が日本では今年公開されましたが、60年代の若者たちにとって、この映画がどれほど衝撃的だったか! 今の方は歌ったり踊ったりする映像を観慣れているかもしれませんが、この頃はミュージカルといっても『王様と私』のような、いわゆるおとぎ話みたいな夢物語だったわけです。でもこれはニューヨークの若者たちを描いたリアルな物語。そしてTシャツにデニム姿で激しく歌い踊るキャストたちを見たときの衝撃たるや。今観ても全然古さを感じないし、ミュージカル好きの私は何度観てもしびれています。

© ZUMA Press/amanaimages
『かくも長き不在』(1961) Une Aussi Longue Absence 上映時間:1時間34分/フランス
監督:アンリ・コルピ
出演:アリダ・ヴァリ、ジョルジュ・ウィルソン
これは戦争をテーマにしたフランス映画。16年前にゲシュタポ(ナチス・ドイツの秘密警察)に強制連行された夫が記憶喪失になって帰ってくるんです。自分の過去を忘れているから、もちろん奥さんの顔を見ても思い出せない。胸が潰れるような悲劇ですが、とっても心に残っています。
『家族の肖像』(1974) Gruppo di Famiglia in un Interno 上映時間:2時間1分/イタリア・フランス
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
出演:バート・ランカスター、ヘルムート・バーガー
ヴィスコンティ監督が描いた家族の話で、主演のバート・ランカスターが老教授を演じています。今でこそ老人を主人公にした映画はたくさんあるけれど、当時はあまりなかったのよね。死を前に、年をとっていくことがどういうことかを描いている。非常に重厚な作品です。

Everett Collection/アフロ
『チャンス』(1979) Being There 上映時間:2時間10分/アメリカ
監督:ハル・アシュビー
出演:ピーター・セラーズ、シャーリー・マクレーン
ピーター・セラーズといえば『ピンク・パンサー』シリーズで知られるイギリスのコメディアンですが、この作品はまったく毛色が違ってまじめな物語。本作でピーターは知的障害がある庭師のチャンスを演じていますが、偶然出会った政財界の大物が彼のことを預言者だと誤解するわけ。セリフも覚えています。チャンスはただ純粋に、まじめに、「I can see」なんて言うわけ。それなのに周りの人は「未来を見ている!」とどんどん誤解をしていく。皮肉な風刺劇ね。大好きな作品です。

©Everett Collection/amanaimages
『フィッシャー・キング』(1991) The Fisher King 上映時間:2時間17分/アメリカ
監督:テリー・ギリアム
出演:ロビン・ウィリアムス、ジェフ・ブリッジス
私の大好きなロビン・ウィリアムスがニューヨークのホームレスを演じた物語です。この主人公は妄想を抱いていてね、キリスト教のシンボルである聖杯を探す使命を神から与えられたと思っていて、ジェフ・ブリッジスが一緒になって探していきながら、不思議な物語が広がっていきます。現実の物語だけど、ちょっとファンタジーが混じっていて、そこが魅力的です。

© Mary Evans/amanaimages
『日の名残り』(1993) The Remains of the Day 上映時間:2時間14分/イギリス・アメリカ
監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、クリストファー・リーヴ
カズオ・イシグロの原作を、アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンで映画化したイギリスの貴族の物語です。貴族に仕える執事のトップをアンソニーが、女中のトップをエマが演じているので、お互いに思い合っているのに愛なんかささやけないの。そこは非常に日本にも通じるものがあり、イギリスの貴族社会的だなと思いました。すぐにキスをしちゃう映画とは違う(笑)。雨の中で感情を抑えに抑えて、手を握って終わるのがとっても情緒的でね。英語もすごく綺麗で聞き取りやすいと思います。

AFLO
取材・文/松山梢 イラスト/Chie Kamiya
ロードショー復刊記念・戸田奈津子さんインタビュー①
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