「キムタクコロッケ! これを食べるとキムタクみたいに男前になれるんですね」

「い、いや、どうでしょうね。ハハハ……」

すみません。お肉屋のおじさんを困らせてしまいました。柳生駅前の「山口肉店」にキムタクコロッケあり! 揚げたてカレーパンもあり! 駅に降り立った10分前は、期待も想像もしていませんでした。さっそく、行き当たりばったりの神様の粋な計らいです。

4月のよく晴れた某日、私の事務所に近い池袋駅から約2時間、JR山手線、JR常磐線、東武スカイツリーライン、東武日光線の急行と各停を乗り継いで着いた柳生駅。片道1000円以内で行けるなるべく遠い駅のうち、行ったことがなくて予備知識もなくて、駅名がなんだか時代劇っぽいというところにひかれて、ここを選びました。東武日光線に乗るのも初めてです。JRと東武線の運賃の合計は953円(ICカード利用)。

小腹が空いたからまずは腹ごしらえかなと思いつつ駅を降りたら、元は商店街だった気配の通りには肉屋さんが1軒のみ。駅前には付きもののコンビニもありません。

「どうしようかな、お店を探して少し歩いてみるかな」と迷いつつ肉屋さんの様子をうかがうと、まさに私を待ってくれていたかのような貼り紙が。

《お店で揚げたてカレーパン 210円》

これは間違いなくうまいはず。期待に胸をふくらませて店内に入ると、さらに衝撃的なオリジナルメニューを発見。

《新商品 キムタクコロッケ 115円》

東武日光線柳生駅を降りたらキムタクコロッケと三県境に出合った_1

キムチとたくあん入りだから「キムタク」。木村拓哉さんが考案した……わけではありません

こちらも食べてみなければ!

「揚げますので、5分ぐらいお待ちいただいていいですか」

眼鏡と白衣がよく似合う実直そうなおじさんが、目の前で衣をつけてくれます。揚がるのを待っているあいだに、あれこれ聞いてみました。キムタクコロッケは2021年秋に登場した新メニュー。きっかけは、何気なくテレビを見ていたら、長野県の学校給食で「キムタクご飯」が人気と紹介されていたことだとか。

東武日光線柳生駅を降りたらキムタクコロッケと三県境に出合った_2
キムタクコロッケ。おじさん曰く「いろんな新メニューを試してみるんですけど、失敗もあります。最近では、焼き鳥のねぎまをフライにした『鳥串カツ』というのをやってみたんですけど、売れ行きはいまいちでしたね。ハハハ」

「ウチは肉屋だからコロッケかなと思って。お子さんでも食べられるように、キムチの辛さを抑えめにして。でもキムチの風味が感じられないとよくないし、そのへんを調整するのがちょっと苦心しましたね」

ご主人(お名前は「いやあ、恥ずかしいからいいよ」とのこと)の試行錯誤の末に完成したキムタクコロッケ。誰もいない柳生駅前で埼玉の青空を見上げながらいただきました。なるほど、キムチとたくあんとポテトの一体感が絶妙です。そして、揚げたてのカレーパンも、衝撃的と言っても過言ではないうまさ。まだ駅前しかウロウロしていませんが、幸先のいいスタートになりました。