2002年1月号の表紙はトム・クルーズとペネロペ・クルスだ。『バニラ・スカイ』(2001)での共演をきっかけに、交際に発展した。一方、01年に離婚を発表した元妻ニコール・キッドマンも『ムーラン・ルージュ』(2001)で6月号の表紙に登場。誌上だからいいものの、映画賞などの会合で直接顔を合わせることになったら、かなり気まずい状況なっていたはずだ(実際、ゴールデン・グローブ賞ではそうした事態がたまに勃発し、席次に気を遣うなどの対応が生じる)。

『ロード・オブ・ザ・リング』『ハリポタ』と特級シリーズの開始で元気なハリウッド。しかし、この“シリーズ”こそが、映画スターと映画誌の命とりとなっていく…!?
トム・クルーズはじめセレブの恋愛事情はお盛ん。続々と作られ始めた世界的大ヒット・シリーズで市場も活況だ。だが長い目で見ると、それは“スター”という存在のパワーを低下させていくものだった…?
ロードショーCOVER TALK #2002
華やかなようで不器用なセレブの恋愛事情

ニコールと別れてケイティと結婚する前にはいろいろ浮名が流れたが、ペネロペがいちばんの大物だった
©ロードショー2002年1月号/集英社
12月号で「セレブの恋♡総決算!」という特集が組まれているように、「ロードショー」もセレブ(このころか“スター”はこう呼ばれるようになった)の恋愛を追いかけていた。
個人的には、くっついたり離れたりを繰り返すハリウッドスターの心理が昔から理解できないでいる。ハリウッドという同じ職場、俳優という同じ部署のなかで大っぴらに恋愛をしたら、別れたあと気まずくなることは考えないのだろうか? 代表格がブラッド・ピットで、『カリフォルニア』(1993)で共演したジュリエット・ルイスをはじめ、『セブン』(1995)のグウィネス・パルトロウ、『Mr. Mrs.スミス』(2005)のアンジェリーナ・ジョリーと、共演者とばかり交際。アンジーとつきあうまで結婚していた(2000~2005)ジェニファー・アニストンは共演がきっかけではないが、同業者である。
共演きっかけの交際といえば、この年に公開された『スパイダーマン』(2002)のトビー・マグワイア&キルスティン・ダンストをはじめ、リブート版『アメイジング・スパイダーマン』(2012)のアンドリュー・ガーフィールド&エマ・ストーン、再リブート版『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)のトム・ホランド&ゼンデイヤと、スパイダーマン役とヒロイン役はかならず交際に発展している。
映画の撮影といえば1日拘束され、大作映画であれば半年も続く。大人たちに囲まれた現場で、いわば監禁状態だ。そのあいだに、若く健康な男女のあいだに好意や結束が生まれていくのは想像にかたくない。
だが、撮影が終われば、それぞれが別の職場に行き、別の異性と同じことを繰り返すことになる。だからこそ、スター同士の恋愛・結婚はめったに長続きしない。そのおかげで、ファンはゴシップを楽しむことができるのだけど。
シリーズものがスターを殺す
2002年は初登場のイライジャ・ウッドが2度にわたって表紙を飾っている。彼がフロド役を演じた『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)がついに公開されたためだ。
『ロード・オブ・ザ・リング』が映画史に残した功績は数多いが、ここでは公開スケジュールについて触れたいと思う。『ロード・オブ・ザ・リング』『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』(2002)『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』(2003)と、1年ごとに新作を発表しているのだ。
一般的に、撮影開始から映画の完成まで1年はかかる。これには脚本執筆などの企画開発期間は含まれておらず、また、VFXが大量にある映画の場合は当然のごとくポストプロダクションの期間が延びる。おおざっぱだが、大作映画を1本作るのに2年から3
年はかかるとみていい。

子役出身で読者にもなじみのあったイライジャがフロド役でブレイク。だが、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズが生んだ最大のアイドルスターは彼ではなかった。その人が表紙に登場するのは翌年!
©ロードショー2002年10月号/集英社
『007』や『ミッション:インポッシブル』『ハリー・ポッター』などのヒットシリーズの公開間隔をみてもらえば、どれほど時間がかかるものかわかるだろう。
だが、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズは1年ごとに新作を公開するという偉業をやってのけた。その秘密は、ニューライン・シネマが3部作を同時撮影という前代未聞のギャンブルを行ったことにある。通常ならリスクを回避するために、ヒットを確認してから、続編にゴーサインを出す。だが、そうすると、公開間隔が空いてせっかくの需要を満たすことができない。また、同時に撮影したほうがコストを削減できるというメリットもある。
ニューライン・シネマの賭けは見事に当たり、コンスタントに新作を発表することで観客の『ロード・オブ・ザ・リング』熱を冷まさまないばかりか、ますます大きなうねりに変えていったのだ。この手法は『アバター』の続編4作を手がけるにあたり、ジェームズ・キャメロン監督が踏襲している。
ちなみに、J・R・R・トールキンの『指輪物語』の映像化である『ロード・オブ・ザ・リング』や、J・K・ローリングのベストセラー小説の映画化『ハリー・ポッター』、アメコミ映画『スパイダーマン』などの台頭により、ハリウッドの映画スターの価値が暴落していく。いまや観客を呼べるのは人気キャラクターであり、演じる役者は取り替えが効くからだ。『スパイダーマン』が役者をころころ変えてもヒットしつづける一方、その役者が出演した別の映画が必ずしもヒットしない。
この年封切られた『スター・ウォーズ/エピソード2 クローンの攻撃』(2002)で、若き日のダース・ベイダーという大役を務めながら、ほかの主演作は鳴かず飛ばずで消えていったヘイデン・クリステンセン(8月号)も、その証左のひとりだ。
12月号には今後数年間、特集と人気のトップを占める『ハリポタ』の初表紙が登場して盛り上がりを予感させる。とはいえ、画角を引いて見てみれば、映画スター個人にフォーカスを当ててきた映画誌「ロードショー」の行く手に暗雲が立ちこめてきたのは、このころかもしれない。
◆表紙リスト◆
1月号/トム・クルーズ&ペネロペ・クルス※後者のみ初登場 2月号/ジョシュ・ハートネット 3月号/ジュリア・ロバーツ 4月号/イライジャ・ウッド※初登場 5月号/シャーリーズ・セロン 6月号/ニコール・キッドマン 7月号/ナタリー・ポートマン 8月号/ヘイデン・クリステンセン※初登場 9月号/ヘイデン・クリステンセン&ナタリー・ポートマン 10月号/イライジャ・ウッド 11月号/ミラ・ジョヴォヴィッチ 12月号/ダニエル・ラドクリフ&エマ・ワトソン&ルパート・グリント※全員初登場
表紙クレジット ©ロードショー2002年/集英社
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