大吉:おそらく大半の男性は、気を遣っているつもりなんですよ。女性からしたらぜんぜん足りないのだと思いますが。このすれ違いはなぜ起きるのか……やはり「知らない」からに尽きると思います。気持ちはあっても知識はない。だから、適切な声をかけられない。
高尾:それで、何か言ってかえって相手の気に障るくらいなら、「何も言わないでおこう」「そっとしておくのが無難」ってなっちゃうのかな。
大吉:そう、結局はそれがいちばん、ってぼくも聞いたことあるんですよ。
高尾:現実には〝当たらず障らず〟という対応が多いと思いますし、それが楽だという女性もいます。一方で、「何もしてもらえていない」と不満をもつ人もいる。
博多大吉も悩む「生理中の女性」にどう声をかける? 失言をいたわりの言葉に変えるコツ
「彼氏に生理体験させてみた」というYouTube動画が話題になるなど、昨今は「男性も生理を知ろう」という空気が生まれつつある。漫才コンビ博多華丸・大吉の博多大吉さんが、産婦人科医の高尾美穂先生に「生理」についてレクチャーを受け、意見を交わした対談本『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』(辰巳出版)も発売された。本書から一部抜粋、再構成してお届けする。
なぜ生理について「失言」してしまうのか

パートナーに「生理でつらい」と伝えたときに、言われて(されて)いやだったことはありますか?(『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』より)
高尾:アンケートで、「『イライラしている日を把握したいから生理周期を教えて』と言われた」とあります。この回答をされた方はあまりうれしくなかったようですが、人によって、あるいは男性側の聞き方によっては、とてもいいと思うんですよ。
「自分の身体のことじゃないから、いつはじまって、いつ調子が悪くなるかわからない。だから前もって知っておけば、こちらもできることがあると思う」と言い添えると、より望ましい形になると思います。
言葉足らずだと受け取る側がカチンとくるのはわからなくもない。調子が悪いときに言われたら、素直に受け取れないかもしれませんね。
大吉:そこがむずかしいんですよね~。カップルごとに違うとも思いますし。
高尾:はい、付き合いはじめなのか、交際してそこそこ長いのか、結婚して子どももいるのか……当然、違ってきますよね。だからこそ柔軟に考えてほしいんです。
女性の場合、生理では特に問題がなくても、更年期になってしんどさが出てくる可能性があります。そのとき、どうするか。
以前出演した「あさイチ」では、更年期の女性がAIに体調と、何をしてほしいかを伝えると、パートナーがそれを見て状況を把握するというアプリが紹介されていました。すごい時代ですよね。直接話さないほうが、コミュニケーションがスムーズになる場合もあるでしょう。生理にも応用できそうです。
それはコミュニケーションではなくセクハラです
高尾:男性も口臭や体臭などに気を遣われている方は多いですが、女性は経血のにおいも気にしますね。経血は血液なので独特の鉄っぽいにおいはあります。でも婦人科の診察で内診台に上がったときに、私たち医師が気づくことがある程度です。
普通に生理用品を使って、ショーツをはいて、洋服を身に着けていたら、ほかの人が察知するほどにはにおわない。ご本人にもそう伝えるのですが、一度気になるとなかなか打ち消せないみたいですね。

職場や学校などで、男性から生理について不快・不適切な言動を受けたことがありますか?(『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』より)
大吉:アンケートで「においで生理だとわかる」と言われた、というエピソードがありましたが、仮にわかったとしても、それを口に出していうのは……。
高尾:セクハラですよね。デリカシーが欠けています。
大吉:セクハラやモラハラにあたる発言も、結局のところ男性が生理の痛みやしんどさをかなり低く見積もっているからでしょうね。もちろん、知らなければ何を言ってもいいというわけではないですけど。
高尾:加えてコミュニケーションの問題だと思うんです。たとえば、上司から「生理なのか」と突然言われたらびっくりする……でもそのあとに「無理するなよ」とつづくと印象が変わりますよね。
日ごろから部下の体調を気遣っている上司なら「心配してくれているんだ」と受け取れるでしょう。声をかけるのが、同僚たちがいる前なのか、ほかの人には聞こえないような場なのかでも違う。そもそもの人間関係が反映されているんですよ。
大吉:その男性がふだんから女性をどう見ているのかにもよりますよね。〝オジサン〟たちには、女性は元気で活発で、でも我慢強いというイメージがもともとあって、ぼくら世代にもそれが刷り込まれている。それは彼らが「女性はそうあってほしい」と思っていて、その期待に応えるべく女性たちが努力してきた結果なんです
けど、彼らにはその努力が見えない。だから女性がドンヨリと具合悪そうにしていると、ウワッて驚くんです。それで余計なことを言ってしまう……。
高尾:生理がつらくていろんなことをあきらめてきた女性はたくさんいますけど、それが見えていない。女性が見せないようにしてきたのもあると思います。
大吉:学生時代に水泳の授業に出られなかったとか、温泉旅行をキャンセルしたとか、そのレベルにとどまらないわけですよね。
高尾:そうですね、人生にかかわるケースもありますよ。仕事の選択の幅が狭まったとか、大事な試験の日に生理がきてしまって実力を発揮できなかったとか。根性や気合いではどうにもならないほどつらい人もいますからね。
大吉:やりたいことをあきらめないといけないほど、しんどいってことですね。そのつらさについて想像力を働かせる努力はしますが、男性が同じしんどさを体験することはできないし、それでわかったような気になるのも違うと思っています。
となると、「女性は生理があるから、しんどいんだ」というのをベースに考えるのはどうでしょう? 月に10日間しか元気な日がない人もいれば、あまり体調に変化がないという人もいますけど、しんどい人のほうに合わせるんです。
高尾:なるほど、「この人は元気に見えるけど、ほんとはしんどいのかもしれない」という前提だと、接し方も変わりそうですね。ひとりの女性のなかでも、調子の悪いほうの日をベースに考えるといいかもしれません。
さらに、カップル間で体調を確認し合う会話をするのはどうでしょう。「今日はどれくらい?」「なんとなくダルいんだ」とか「今日はすっきりして身体が軽い!」とか。朝の日課としてコミュニケーションを取り合うんです。男性も、自分の体調を言葉で伝える。
大吉:疲れが抜けないとか、お腹がしっくりこないとか、ありますからね。
高尾:どっちがしんどいかを比べるものではなく、お互いの「今日こんな感じ」を知っておくのがいいんだと思います。パートナーや家族だけでなく、職場でやってもいいんです。「生理で調子悪いんです」とまで言わなくてもいいと思います。「10のうち6ぐらいです」と数値化すると言いやすいし、伝わりやすいかな。
〝察する〟よりも確実なこと
大吉:「男性にわかってもらおう」という意図なんだとは思いますが、生理の痛みを「男性の身体に置き換えると、こんなことをされたときの痛み」というたとえをよく見ますが……高尾先生はどう思いますか?
ぼくは、痛みの共有は究極のところ無理だと思うんですよ。安易なたとえは、むしろ乱暴な気がします。
高尾:おっしゃるとおりです。痛みを正確に知らなければ何もできない、ということもありませんしね。
大吉:ぼくは「どんなふうに痛いのか」もですが、それ以上に「いま何をしてほしいと思っているのか」ってことを知りたいんですよ。
高尾:生理だからといって、特別な会話をしようと思わなくていいんです。
もしパートナーの食欲が何日も落ちていたら「一度病院に行ってみたらどう?」 と声をかけますよね。〝食欲不振のつらさを自分は体験したことがないから声をかけられない〟という発想にはならない。
大吉:たしかに、自分が経験したことがなくても、相手の様子がおかしければそれなりの声はかけますよね。生理のことになった途端に、悪い意味で意識してしまうところがあるのかもしれない。
高尾:生理であろうがなかろうが、普通の会話を心掛けたいですね。

交際相手や妻から「生理でつらい」と言われたら、どんな対応をしようと思いますか?または、どんな対応をしたことがありますか?(『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』より)

パートナーや交際相手に「生理でつらい」と伝えたときに、どんな対応をしてほしいですか?(『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』より)
高尾:アンケートを見ると、女性は生理でつらいとき相手に「察してほしい」と思っていて、男性は女性に対して「察したい」と思っているんですね。心身がしんどいときに理路整然と説明することはむずかしいと考えると、女性が「察してほしい」となるのもわかります。でも男性はどこまで「察する」ことができるのか……大吉さんどう思いますか?
大吉:う~ん、少なくとも付き合いが浅い相手に対してはむずかしいでしょうね。
高尾:たしかに、お互いどれぐらい自己開示できているかにもよりますよね。付き合いたてでも「私、生理のときは調子が悪くなる」「怒りっぽくなる」という前提を女性から伝えていれば、デートの日に生理になったと聞かされれば男性も察して、「じゃあ、にぎやかなところにいくのはやめて、家でゆっくりしようか?」と言えるでしょうし。
結局のところ、こうしてほしいという理想を暗に求めるよりも、どうしてほしいかをはっきり言い合える関係になるほうが早い気がします。
大吉:マニュアルがあるわけじゃないし、同じ相手でも先月と今月とで求めるものが違うかもしれない。となると、言葉にして伝えるほうが確実だと思うんです。〝わかってほしい合戦〟になっちゃうのは、ちょっと不毛かな。
ぼくたちが 知っておきたい生理のこと(辰巳出版)
著:博多大吉 著:高尾 美穂

2022年10月7日発売
1540円(税込)
18.8x12.7x1cm/160ページ
978-4777828982
漫才コンビ博多華丸・大吉の博多大吉さんと、NHK「あさイチ」でもおなじみの産婦人科医・高尾美穂先生が「生理」をテーマに語りあいました。
生理のメカニズムについての解説はもちろん、男女約480人によるアンケートの回答も交えながら、生理痛やPMS(月経前症候群)への理解を深めたり、生理にまつわるコミュニケーショントラブルや社会レベルの課題について、一緒に考えます。
女性の身体に起こる「生理」について、男性が知る意味とは? 女性の生理について社会的に取り組むことは、女性優遇なのか? 女性が生理休暇をとりづらい背景とは?
一見して女性に限った問題にも見える「生理」というテーマから、「誰もが生きやすい社会」をつくるためのヒントが見えてきました。
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