――前編ではしょご先生にオーストラリアの保育園のトイレ事情をうかがいました。性教育全体の事情も教えてください。
「オーストラリアは地域ごとに教育カリキュラムを組む仕組みになっているので、日本のように国で細かく決められた学習指導要領などはないんです。そのため、各地域で柔軟に指導が行われています。
その中で僕が感じるのは、性教育を“授業内の話”にしないという意識が高いということ。
日本だと、性教育ってどんなものをイメージします?」
――性の多様性の話や、性感染症予防の話とかでしょうか。
「そうですよね。オーストラリアは性教育をもっと広く捉えています。
例えば女子生徒がバッチリメイクで学校に来たとします。日本ならその理由を聞くことなく『メイクは禁止』と一蹴されてしまいますよね。オーストラリアでは、メイクをしてきたことの理由をしっかり聞きます。その上で、落として来いではなく、『やるならちゃんと研究して上手にメイクをしてきなさい』と注意する(笑)。
その子が表現したいことを否定したりはしません。表現をしたかった思いを尊重し、よりよい方向へ導くというのがオーストラリアのスタイルです」
――しかし、それって性教育なのですか?
「もちろん。僕は、性教育は『生きるための知識をつけるための教育全般のこと』だと思っています。ドメスティックバイオレンスや、人間関係などの問題のほか、彼らが自分をこう表現したいと思う気持ちを尊重し、その上で指導するということも含まれます。
日本は『学生のうちはメイク禁止』、しかし大人になれば『メイクは女性のマナー』と、突然手のひらを返されますよね。それなのに、普通の学校ではメイクなんか教えない。化粧や服装を性別やライフステージによって求めるのならば、教えたりアドバイスしたりすることも必要です」
――それは本当に多くの人が感じている違和感だと思います。教科と同じように、必要なことならば教えられる場があってもいいですよね。
コンドームは子どもたちの遊び道具!? 驚くべきオーストラリアの性教育事情
日本の性教育は諸外国と比べて遅れていると度々注目を集めるが、未だ大きな変化は見られない。家庭で行う性教育ブームは高まっているものの、学校の性教育が進歩しているとはまだまだ言えないだろう。現在、オーストラリア在住の高校教師で、YouTubeなどで性に関する情報を発信しているしょご先生に、オーストラリアの性教育事情を取材。日本の現在の性教育の課題が見えてきた。
日本とは違う「オーストラリアの性教育」事情
性教育を特別なものにしないために
――避妊や性感染症予防などの指導に関してはどうですか?
「学問としての話でいうと、生物として人間の体の仕組みを説明します。どのような行為を経て、受精し、妊娠するのかという部分ももちろん教えます(ライター注:日本では「はどめ規定」により、触れられないことも多い)。それ以外の心の話やジェンダーの話は、教師が適切なタイミングを判断して行います。
ただ、性教育をしていると『先生はどうなの?』と、教師のプライベートを聞こうとする生徒もいます。こういったことを避けるために、医師や看護師に授業をお願いすることも多いですね。
話しにくいから話さない、ではなく、話しにくいなら専門家に頼る、そして教師側も自身のプライベートをどれだけ共有したいか、したくないかも尊重されるという仕組みが整備されています」
――地域との連携もしっかりされているんですね。地域によっては性に関するサポートコミュニティがあり、街の催しなどでコンドームを配ることもあるというのを聞きました。
「そういう団体も地域ごとに活動しています。オーストラリアではスーパーなどで子どもたちがコンドームを購入して、風船みたいに膨らませたり水をいれたりして遊んでいるのを見かけます(笑)。日本よりもコンドームを身近なものと捉えていると思いますね」
――すごい! 日本では考えられない光景ですね。
「僕としては、最初から避妊具としてではなく、まずは身近なものとして触れてほしいなと思っています。膨らませてどこまで伸びるのか、どれだけ水を入れられるのか、といったことを、遊んで体感で知ってほしいですね。
もちろん、本来の使い方を教えることも必要ですし、そういう指導は学校でしっかりします。しかし、最初の出会いが『性行為の時に使う避妊具』としてではなく、もっと身近なものとしての方がいいなと思っています」

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日本とオーストラリアの性教育の違いと課題
――オーストラリアの性教育が少し見えてきました。しょご先生が感じる日本とオーストラリアの性教育の違いはなんだと思いますか?
「たくさんありますけれど……(笑)、一番は『完璧を求めるかどうか』ではないでしょうか。
日本は性教育に限らず、「間違ってはいけない」「間違わせてはいけない」という意識が強すぎると思います。もちろん正しいことを教えることは大事ですが、そればかりでは現代の子どもたちのニーズには応えられません。
例えば、日本の学校で性感染症の指導をするときには『コンドームなしの性行為は危険』ということが前面に押し出されることが多いですが、僕はコンドームなしの性行為が一概にダメだとは思いません。自身が納得できる避妊と性病予防、そして定期的な性病検査をして治療法を学ぶ責任と覚悟があるならば、していいと思います。
性教育は、この『自身が納得できる避妊と性病予防、定期的に性病検査をし、治療法を学ぶ責任と覚悟をもって』という部分をしっかり教える役目があると思います。
そもそも、そういった行為を経て生まれてきているのに『コンドームをしない性行為=悪』とだけ教えるのはおかしいですよね。
オーストラリアでは学校内の教師が連携をしながら、子どもの実態に応じた性教育をトライアンドエラーで行っています。『これは子どもたちにうまく伝わった』『これはイマイチだった』ということを細かく共有しています。
もちろん課題もあります。
オーストラリアは移民の国ですから、様々な宗教観、価値観の人がいます。同性愛はダメ、結婚するまで処女でなければいけないという価値観の家庭も少なくありません。しかし、そういう子どもがいるからといって『学校では性について教えない』ということはありません。
家庭背景に応じて別室で授業をすることもありますし、親がダメと言っても、本人に学ぶ意欲があるならば、ある程度教えることもあります」
――生活環境やバックグラウンドに応じて、教育も柔軟に対応する必要があるのですね。
「そうですね。ネットでの検索スキルの話も性教育でしますよ。間違った性の知識に触れることを恐れて性的なものを調べることを禁じても、子どもは興味があるのだから従うはずがありません。ですから、子どもの興味を禁ずるのではなく『雑なキーワードで検索しない』ことを教えています」
――雑なキーワード?
「例えば『女性 イカせる方法』と調べるのではなく、『オーガズム』という言葉に換えられることを教えることで、より科学的根拠があって本人の生活を豊かにする知識に辿り着きやすくする、といったことです。
『興味に蓋をする』のではなく、『信憑性の高い知識や方法に辿り着けるよう手助け』をするのです」
「キレイな性教育」を捨て、もっと柔軟に、伝わりやすく!
――今後、日本の性教育はどうなっていってほしいと思いますか。
「性教育を行うターゲットはどんな層なのかを、もっと考えてほしいなと思いますね。
僕は普段YouTubeで性について発信しているのですが、動画の中では砕けた表現をあえて使うこともあります。これも視聴者に親しみを感じ、身近な話題と思ってほしかったからです」
――確かに、しょご先生の動画の内容は医学に基づいたためになる話ばかりですが、サムネイルなどは少しドキッとします(笑)。
「そうですよね(笑)。でも、そういう発信の方が興味をもってくれたり『自分に関係があることかも』と感じてくれたりするんです。無難でキレイな言葉でまとめるのではなく、もっと彼らの実態に合った言葉や表現で、伝わりやすい性教育になるといいなと思います。
僕は今の日本の性教育を『キレイな性教育』と言っています。厳しい言い方ですが『聞こえがよくてやっている感があり、自分たちが許容できる多様性の中だけで繰り広げられている性教育』という意味です。
しかし『キレイな性教育』の中で語られることが通じるほど、人間は単純なものではありません。
子どもたちが、ダメと言われることや、いやらしいことを知りたい、してみたいと思うのは当然です。そういうことを『絶対にダメ』と封殺するのではなく、『こういう方法があるよ』『こういうコミュニティもあるよ』というように、視野を広げてあげる性教育になるといいなと思います」
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