東日本大震災が起きたのは2011年3月11日。その4日後の3月15日深夜、富士山の直下でマグニチュード6.4の地震が起きた。静岡県富士宮市で震度6強を観測し、静岡県東部地震と命名された。
この時、私は東京新聞の編集局で朝刊の責任者だった。すぐに科学部のデスクと「富士山噴火の危険性を書くかどうか」を相談した。内心、「ひょっとしたら……」との思いはあったが、何人かの火山学者に電話したところ、「危ない」と語る学者はいなかったので、記事の掲載は見送ることとなった。
当時、私がそう思ったのは、富士山最後の噴火、江戸時代の宝永噴火(1707年)は、その49日前に起きた宝永地震が引き金になったと考えられているからだ。東日本大震災に続く静岡県東部地震は、同じような噴火が起きる予兆かもしれない、と心配したのだ。
火山学が専門の京都大学の鎌田浩毅名誉教授は昨年3月、定年退官の最終講義で富士山噴火について話した。概要を紹介する。
「岩石を1000度ぐらいに熱するとドロドロに溶けるが、それをギュウギュウに詰めたのがマグマだまり。富士山の地下20キロぐらいにもマグマだまりがある。それが地表に上がってくるのが噴火だ。
最初は『低周波地震』という特殊な地震が発生し、これが始まると"数週間ぐらいで噴火につながるかもしれない"と火山学者は緊張する。その後に、私たちがよく経験する、ガタガタと揺れる『有感地震』となる。さらに、マグマが岩盤を割りながら上昇することで起きる『高周波地震』、そして、『火山性微動』が始まる。
経験的には火山性微動が始まると、噴火は30分から1日後ぐらいに起きる。マグマが上昇するきっかけの一つは、巨大地震でマグマだまりが揺さぶられることだ。東日本大震災後、日本にある活火山111のうち、浅間山、草津白根山、箱根山、阿蘇山など20の火山で火口の下での地震が増えた……」
この最終講義は、YouTubeで見ることができ、南海トラフ地震や富士山噴火、温暖化を分かりやすく解説している。
実は、鎌田名誉教授は私の30年来の友人である。彼らしい熱い思いが感じられるこの名講義、再生回数は87万回超。防災に関心のある人には視聴をお勧めしたい。

富士山の噴火はどこまで予知できるのか?【噴火はプロセスを踏む】
7月1日に山開きした富士山は例年、シーズン中はご来光を目指す登山者の長い列ができる。もしもあなたが列の中にいて突如、噴火が始まったとしたら……。これは全くあり得ない話ではない。万が一、噴火すれば東京都心でも火山灰が降り、都市機能がダウンするといわれている。富士山噴火は起きるのか、予兆があったらどうすればよいのか。夏山シーズンに考える。
怖いのは巨大地震の「後」
歴史にみる「巨大地震」と「富士山噴火」の関係
巨大地震と富士山噴火の関係は、以前から注目されている。内閣府の「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1707 富士山宝永噴火」には、噴火と地震の関係がわかる年表が掲載されている。
宝永噴火では直前に東海地震(南海トラフ地震)が起きただけでなく、1703年には関東地震も発生している。同年表によれば、1083年から1435年までは噴火がなかったように見えるが、これは記録が残っていない可能性が高いという。

富士山の火山活動年表(内閣府)
話はそれるが、日本は災害の記録がよく残っているとされる。地震が周期的に発生するという考え方も、1000年を超える記録の蓄積から導き出されているのだ。
災害記録の多くは、地方から都に届いた情報が書き留められたものである。戦乱の時代は情報が届かないうえ、記録が焼失する可能性も高い。最近は不都合な記録は残さないという風潮があるが、記録は子々孫々の役に立つのである。
次の噴火はいつ
富士山の噴火は781年以後17回記録されている。「宝永噴火以来、300年間も噴火していないので、マグマだまりには噴火するのに十分なマグマが溜まっている」と多くの火山学者は考えている。
あとは、きっかけだ。東日本大震災では、有感地震までプロセスが進んでいたが、幸い、そこで止まったようだ。
もしもこの先、南海トラフ地震が起きたら、富士山にも警戒が必要だ。富士山直下で地震が起きたら、メディアは一斉に、噴火への警戒を呼び掛けるのではないか。
ところで、噴火は予知できるのだろうか。
2000年に起きた有珠山噴火では、3月27日に火山性地震が始まり、火山噴火予知連絡会が翌28日に「噴火の可能性」を発表し、地元の自治体や住民に自主避難を呼びかけた。噴火規模は大きかったが、犠牲者はゼロ。噴火予知の重要性を印象付けた。
一方、2014年に御嶽山で起きた噴火では、予知ができず、山頂付近にいた登山者ら63人が亡くなったり、行方不明になったりした。御嶽山は水蒸気爆発で、マグマが上昇した噴火ではなかった。マグマが動かない水蒸気爆発に関しては、予知が難しいことを示している。
江戸時代の宝永噴火は「死者ゼロ」
富士山のマグマだまりが何かのきっかけで揺さぶられ、実際に大噴火が起これば、大震災並みの社会的影響があると考えられる。しかし、鎌田名誉教授が指摘するように、噴火はプロセスを踏む。地下深くのマグマが上昇すれば、地震が起き、富士山の山体も膨張する。
富士山には地震計や傾斜計など多くの観測装置が配置され、宇宙からも監視しているため、私はある程度、予知できるのではないかと考えている。
こうしてマグマの動きが活発になれば、噴火警戒レベルも火口周辺規制のレベル2、入山規制のレベル3へと引き上げられるだろう。レベル4は高齢者避難、レベル5は(全員)避難だ。
私たちは自然災害に真正面から立ち向かう技術をまだ、持っていない。人命を守るには避難しかないのだが、仮に予知ができても避難がスムーズでなければ、意味がない。日頃から避難訓練をし、噴火警戒レベルが上がったら、それに従って避難することが重要だ。
宝永噴火はかなり大きな噴火だったが、直接の死者の記録はない。江戸時代の人はうまく避難したのだろう。科学が発達した現代の我々には更なる情報がある。この夏、山に登る人は特に、火山の情報に耳を傾け、いざという時の適切な避難をこころがけてほしい。
写真/shutterstock
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