黄金の便器をゲット? トイレをシミュレーションする奇天烈な海外ゲームの世界【ソーシキ博士『インディーゲーム中毒者の幸福な孤独』試し読み2】_1
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定期的に目の前に現れる「トイレットシミュレーター」

ポピュラーではない海外インディーゲームを探して遊ぶことの大きな喜びは、やはり誰も知らない凄いゲームを見つけることだろうか。なぜこんなゲームが誰にも見つからずにあったのかと、そこには宝を探し当てたような興奮が確かにある。だがゲーム探しが日課として体に馴染んでくると、目を見張るような掘り出し物が無くてももっと些細な部分、毎日変化する小さな起伏自体に愛着が出てくる。例えば私にとってその一つは〈Toilet Simulator〉と出会った時だ。

ここで私がいう〈Toilet Simulator〉とは“個室の中に便器があり、そこでトイレに関する何らかの要素をシミュレートしたゲーム”の事だ。それは別に大きなブームになっていたり、有名な先駆者がいるわけでも無いのだが、年に数本、忘れた頃にぽつりぽつりとどこかの誰かの手によって作られ、その流れが絶える気配は無い。これはおそらく何かゲームを作ろうとアイディアを練っているうちに、どういう具合でか「トイレのシミュレーターを作ろう」という独特な決心に行き着く者がいつの日も一定数いるという事だろう。

毎日の食事だって美味しいものを食べたいという基本的な欲求はあるにせよ、話題の新商品があれば試してみて「なるほどこんなものか」と納得したり、いつもは醬油で食べる所を塩で食べてみたり、日々の様々な変化の中にあるふとした違いに趣を見出している。トイレという同じ現実を用いて各自がそれをどのようにゲームにしたのか。そこに千差万別があるのがなんとなくおもしろい。自分にとって定期的に目の前に現れる〈Toilet Simulator〉を遊び比べてみる事もゲーム探しを続ける時間のれっきとした味わいとなっている。
 
まずは2019年に発表された「Toilet Simulator 2020」の話からしてみたい。このゲームにはToilet SimulatorとReal time peeという二つのモードがある。Toilet Simulatorを選択すると新聞を読んでいる全裸の男性の一人称視点から始まる。下を見てみるとモザイクのかけられた局部があり、ボタンを押すと際限なく大きい方やおしっこをする事ができる。出すも止めるも自由自在、大便をしすぎると便器から飛び出して個室の中を元気に跳ね回ったりする。一人称以外の視点も用意されていたり、局部をマウスでコントロールして小便の方向を変えられるなど、そんな所の芸も細かい。Real time peeモードは小便に特化したモードで、小便を出し続け、それが個室いっぱいまで溜まると重みで床が抜け、下の家のリビングに落下してしまう驚きの展開が待っている。わざわざ精密なグラフィックを用いてトイレを再現している所、さらに「これはシミュレーターです」という建前を利用して真顔のふりしてふざけている所に存分に醍醐味が詰まっている。値段がたった100円なのもバカバカしくて良い(こんな値段なら無料でもよさそうなのに、安くてもプレイヤーにわざわざ身銭を切らせようとしている)。「トイレで排泄するという行為をゲーム化する」下らなさに対して、ある意味で実直に向き合ったこのアプローチは数ある〈Toilet Simulator〉の中でも王道と言っていいだろう。

次に紹介する「Toilet Flushing Simulator」は水を1回流す毎にポイントが溜まっていき、そのポイントを使ってどんどん新しい便器を購入していくゲームだ。便器のデザインはベーシックな白い陶器から始まり切り株、桶、ゲーミングチェアのような背もたれと手すりがついたもの、黄金の便器などがあり、最近更新されたアップデートによってハロウィン仕様のものなども登場した。余ったポイントを使って便器にうんこやミニカー、iPhone等も落とすことができる。個室のデザインも変更でき、公衆便所風のものや宇宙なんかも選択できる。「Toilet Simulator 2020」とは違いこちらは排泄ではなく、トイレの外観の方に着目しているのがおもしろい。トイレの外観なんて変えてはたして楽しいのかと思ってしまうが、遊んでみるとコツコツと同じ事をして新しいものを得るという単純な行為には静かな中毒性があって、気付くと時間を忘れて水を流し続けてしまっている。

2018年11月の1ヶ月間、トイレに入って毎日排便するという妙な設定のゲームは「Poopy Philosophy」だ。最初にカレンダーが表示され、日付を選ぶとトイレの個室に座っている男が現れる。個室の中にはドアや戸棚やゴミ箱、浴槽、窓などがありこれらをクリックすると開閉したり、水が出たりとそれぞれ決まった反応がある。スペースバーを長押しすると男がいきみだし、スポンッと小気味いい音が鳴ると男の顔がアップになる。それで一日が終わって、また次の日が始まる。それだけの事を繰り返していくのだが、ある時は床にビンが転がっていたり、ある時は窓の外の木に鳥が止まっていたり、壁に不気味な絵が貼ってある事や、ドアを開けると何故か人が立っている事もある。日付の概念を導入し、当たり前の日課であるトイレに少しずつ違うシチュエーションを持たせることで、どんなに似ているようでも同じ一日など決してないという事を表現してみせる。