スポーツに打ち込む娘の生理が止まったら…「出血がないことそのものは問題ではない」人気産婦人科医が指摘する生理不順&無月経の本当の問題点
思春期において、女子のからだは女性らしく変化していき、始まる年齢は人によってばらつきがあるが、初潮(最初の生理)がやってくる。15歳をすぎても初めての生理がこないなど女性にとって悩み多き“生理”の問題について、産婦人科医・高尾美穂が解説する。『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』#1
子どもの思春期と母の更年期、重なる家庭が増えています
産婦人科には、さまざまな女性がいらっしゃいます。私はこれまで、10代から閉経後の方まで、もちろん妊婦さんも含め、女性のあらゆるライフステージに医療の側面からかかわってきました。
この数十年で、女性のライフコースは大きく変化しました。一番大きな変化は出産年齢です。
以前、小学校のPTAの講演中に気づいたことがありました。小学生のお母さんといえば、すごく若い方だというイメージを持っていたのですが、最近はアラフォーで出産する方もめずらしくありません。仮に35歳で産んだとすると、子どもが小学校高学年になるころ、お母さんは40代後半なんですよね。
小学校高学年といえば思春期を迎えるころです。一方、40代後半は更年期に差し掛かる年代であり、どちらも、女性としてのからだが変化して、こころも大きく揺さぶられる時期です。
つまり、「『小学生の子どものいる家庭』とは、『家庭の中に不安定なこころを抱えた人が少なくとも二人いる状態』かもしれない」と、いえるわけです。
しかも、お母さん世代が成長期、思春期だったころと今とでは、世の中は大きく様変わりしています。

女性のからだとこころの変化は意外なほどシンプル
女性の性や生殖に関する医療は格段に進化しました。出産年齢の高齢化も、進化した医療技術に支えられているといえます。
それと並行するように、女性だって家庭を「守る」役割に縛られることなく、自分のやりたいことを実現させたり、家庭の外で働き、社会とかかわりながら生きていく道を選んだりと、かつての社会が決めた「女性はこうあるべき」という枠組みにとらわれる必要はない、という考えが一般的になってきています。
とはいえ、社会にはいまだジェンダー格差が存在していて、平等や公平を目指していくべきだとか、セクシュアリティーは多様なもので、お互いに尊重し合うことが大切だという考え方が、日本でも広く知られるようになりました。
現在の思春期の子どもは、そうした最新の医療や、ジェンダーやセクシュアリティーにまつわるさまざまな価値観が当たり前にある時代を生きていくわけです。
女性たちは、母であり妻であり、働く人であり、自分の親との関係では娘であったりと、いくつもの立場をかけ持ちしながら、せわしなく日々を送っています。
思春期世代だって、家族との関係や学校での人間関係、部活動やそのほかのさまざまな活動を通して、十分に社会とかかわりながら生きています。その意味では、男性だから、女性だから、と違いを口にすることはナンセンスになるかもしれません。
一方で、一生を通して、女性のからだは男性よりも揺らぎが大きく、大きな波と小さな波が繰り返しやってきます。その大きな波の代表が、思春期と更年期なのです。女性のからだとこころの変化は複雑に見えるかもしれませんが、難しくはありません。意外なほどシンプルだったりします。
年代を問わず一番大事なのは、「自分の人生だから、自分で決める」こと。
ただ、これが簡単にはいかないのも、また真実なんですよね。
一つ確実にいえることは、いろんな悩みがあったとしても、「自分なりに幸せな人生を送れている」と感じられるかどうかには、家族やまわりの人たちとの関係性がとても重要だということです。
大きな波はときにからだとこころを揺さぶって、私たちをピンチに出合わせますが、うまく乗りこなすことはできるはず。そのためのヒントを一緒に考えていきましょう。
初潮を迎えるあなたと、からだで起きていることを話そう
思春期と更年期。どちらも女性にとって大きな変化の時期ですが、からだとこころの浮き沈みはなぜ起こるのか。そこには、女性ホルモンの変動が大きくかかわっています。
思春期において、女の子のからだはより女性らしく変化していきます。おっぱいがふくらみ、おしりも大きくなり、脂肪の量が増え丸みをおびます。これらのからだつきの変化を迎えてから、もっともセンセーショナルなできごとともいえる初潮(最初の生理)がやってきます。
初めての生理よりもからだつきの変化を先に経験しているからこそ、そのあとにどんな変化が起こるのか、あらかじめ伝えることができるわけです。
からだつきの変化がはじまったら、これから起こる変化、つまり初潮について、あなたから娘さんに少しずつ話す機会をもっていただけるといいですね。
では、なぜ生理は起こるのでしょう?
生理をシンプルに説明すると……。
まず、卵巣からエストロゲンが分泌されて、分泌がピークに達すると排卵が起こります。すると、プロゲステロンが分泌されて、次第に厚くなってきた子宮内膜─受精卵のベッドになるもの─が妊娠に適した状態に整えられます。しかし、妊娠が成立しなかった場合、準備していた子宮内膜は使われることなく、子宮内膜がはがれる際に出る血液と一緒に排出されます。これが生理です(図1-1)。

図1-1 生理にともなう子宮内膜の変化。『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』より
エストロゲンとプロゲステロンは、どちらも女性ホルモンです。そして、からだつきが丸くなることと初潮を迎えることは、いずれもこの二つのホルモンの作用による変化であって、切っても切り離せない関係があるのです。
そもそも、エストロゲンが分泌されなければ、生理は起こりません。
では、エストロゲンをつくるのに何が必要かというと、コレステロールです。コレステロールは脂質(脂肪)です。つまり、ある程度の脂肪がないと、エストロゲンが分泌されないわけです。
小学校高学年(10〜12歳)あたりで初潮がくるためには、脂肪量が増えてからだが丸みをおびてくることが必要です。なぜなら、脂肪細胞から分泌されるホルモンが、卵巣の働きをスタートさせるからです。
からだが成熟しきっていないうちは、エストロゲンの分泌量が安定しないために月経周期が不規則だったり、重い生理痛を経験したりすることがあります。
そのほかにも、生理前にイライラしたり落ち込んだりといった月経前症候群(PMS)があらわれることもあります。
年齢を重ねていくと、自分はどういう症状が出やすいタイプなのかがだんだん把握できて、限度はあるものの、それなりに自分で対処できるようになりますが、10代のうちはなかなかそうはいきません。
思春期はからだの変化に加えて、こころも成長する時期です。からだの成長とこころの発達がかみあわずイライラしたり、自分では大人だと思っているのに周囲に子ども扱いされて不満を抱いたりということもよくあるそうです。
この時期に伝えたい情報は二つ。
はじめての生理(初潮)という、女の子にとって強烈なインパクトのあるできごとがおとずれること、そして、生理がくるということは、エストロゲンがきちんと分泌されていて、あるべきからだの成長のみちすじに正しく乗っかっているということです。
まずはこのことを思春期まっただなかの娘さんに、ある程度知ってもらうことが大事です。自分のからだの内側でどんな変化が起きているのかを知ることで、不安を減らすことができるはずです。
生理不順や無月経でもあわてないで
「小学校高学年ぐらいになると初潮がくる」とお話ししましたが、初潮年齢は人によってばらつきがあります。中学生で初潮を迎える人もめずらしくありません。
それが、15歳をすぎてもはじめての生理がこないと「ちょっと遅いかな」となり、18歳をすぎても生理がこない場合は「原発性無月経」と呼ばれます。
では、無月経だと何が問題なのでしょう。
じつは、出血がないことそのものが問題なのではありません。生理の出血はいわば二次的な産物です。
では何の産物かといえば、「卵巣からエストロゲンが分泌されること」です。つまり、無月経の問題点は、エストロゲンが十分に分泌されていないことであり、そのために必要なエネルギーが摂取されていないことなのです。
私は婦人科のスポーツドクターとして女性アスリートのサポートをしていますが、10代の女性アスリートが厳しいトレーニングをして生理が止まってしまうとか、高校生になっても初潮がこないといった無月経にまつわる課題は少なくありません。
生理がくるべき年代にこないのは、成長期の女性にとって望ましくない状態です。
エストロゲンには、排卵をうながすほかにも、骨の代謝に影響して骨を強く保ったり、コラーゲンの産生をうながして肌の弾力やうるおいを保ったりする働きがあります。エストロゲンが失われると骨がもろくなることから、女性アスリートはエストロゲンがある状態で競技を続けるのが望ましいです。

実際にジュニアアスリート本人や保護者から相談を受けたときは、生理のない状態を長期間(3カ月以上)放置せず、婦人科を受診するようアドバイスしています。
また、15歳をすぎても初潮がこなかったら、一度婦人科を受診してくださいと伝えています。
多くの娘さんは習慣的に運動をしているかもしれませんが、本格的な競技生活を送っているわけではないと思いますので、そこまで切羽詰まった心配をする必要はないかもしれません。
例えば、初潮はきたけれども生理のサイクルが安定しない、次の生理がくるまでに数カ月あいてしまう、逆に早くきてしまうといった場合は、エストロゲンの分泌はある程度保たれているとみることができますので、「今すぐ婦人科にかからなきゃ!」という状態ではないと考えて良いでしょう。
ただし、初潮から数年経っても生理不順が続く場合は、婦人科受診を検討されるといいかもしれません。
一方、からだは十分に成長しているのに、18歳をすぎても初潮がない場合は、エストロゲンの分泌がない(少ない)ために生理がこないのか、エストロゲンは十分分泌されているのに生理がこないのかを判断する必要が出てきます。
それぞれ対策・方法は異なるため、婦人科を受診し、アドバイスを受けてください。
文/高尾美穂 構成/長瀬千雅 図版/朝日新聞メディアプロダクション
『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)
高尾 美穂 (著)

2023/9/20
¥1,760
256ページ
978-4023322929
NHK「あさイチ」出演で人気の産婦人科医・高尾美穂さんは、更年期外来を訪れる母親から思春期の娘の心身や性教育の相談を頻繁に受けるといいます。
女性の人生の二大ピンチの時期にあるふたりは、共に心身不安定だからです。
本書は、この時期に限らず、母と娘がどんな状態でも落ち着いて性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポートします。
同性ゆえのむずかしさがある、母と娘の関係性を築くきっかけになることを願っています。
女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らずおすすめしたい本書ですが、さらに、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。
―目次―
【Chapter.1】 女性の二大ピンチ到来! このチャンスに話そうよ。
【Chapter.2】 知らないうちに働いてくれている? 女性ホルモンの“ふるまい”を観察!
【Chapter.3】 20年前とは劇的に変化。「生理について」をアップデートしなきゃ。
【Chapter.4】 お母さんには言いづらい。でも、気づいてほしい。
【Chapter.5】 人生を、まず自分で守るために。セックスとHPV を語り合おう。
【Chapter.6】 そもそも、子どもを産むって、どんなこと?
【Chapter.7】 どうして私、女の子に生まれちゃったの?
【Chapter.8】 母も娘も“私の人生”を歩いていこう
〈付録 女性の人生年表Q&A それぞれの年代で起こりうること、気をつけたいこと〉
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